最高級の「ボヤキ」はカメラをしまった後
では、Aランクのボヤキとはどのようなものかといえば、ズバリ、新商品の開発につながるボヤキである。その多くが「~なんて商品ないよなぁ」という嘆息の形を取ると包行は言う。
「最高級のボヤキは、実は、ビデオカメラを止めた後、カメラをしまってさあ帰ろうかというときに、ぽろっと本音が出ることがある。それを拾える営業マンこそ、最高の営業マンです」
実を言えば、まさおの最大の売りである刈り高を自在に変えられる機能は、包行自身がキャッチしたAランクのボヤキから生まれている。
数年前、包行が営業で北海道に行ったときのこと。苫小牧のDIYショップにふらりと立ち寄ると、「たったいま、お宅の草刈機まさおが売れたばかりです」と店員が言う。客の素顔に接するまたとないチャンスだと考えた包行は、店員に連絡先を教えてもらって、まさおを買ったという客のもとへ急行した。
客は、牛や馬を飼育している牧場の経営者だった。いろいろと話し込んで、包行がいとまを告げようとしたまさにそのとき、牧場主がぽろりと言った。牧草が成長して先端にシャラシャラした実がなると、牛や馬はそれを嫌って牧草を食べなくなってしまう。もしも先端のシャラシャラした10センチだけを刈り取って、他を残してくれる草刈機があればいいのだけれど……。
「まさに、『そんな商品はないよな』ときたわけです。その瞬間、これはすごいボヤキをもらったなと思いました」
超A級のボヤキを手に入れた包行は、福岡に帰るとさっそく技術陣に、刈り高を大幅に変えられる草刈機の開発を命じた。技術陣は乗車型というまさおの構造上、絶対に無理だと主張した。
「技術屋がすぐに『できます』と返事をする場合は、たいしたものはできない。反対に『絶対に作れません』と言う場合は、すごい新商品になるんです」
包行が採取したボヤキを反映した新生まさおは、刈り刃に動力を伝えていたベルトをプロペラシャフトに変えることにより、通常20ミリから70ミリ程度までしか変えられない刈り高を0ミリから150ミリに拡大することに成功し、大ヒット商品となった。
実際にまさおを見せてもらうと、塗装がカラフルでほとんどゴーカートである。思わず運転してみたくなる。
「子供の頃、家の手伝いで草刈りをやらされるのが嫌で嫌で、ゴーカートに乗って走り回っているうちに草が刈れたらいいなと思っていたんですよ」
まさおは、包行少年のボヤキから誕生したというわけだ。
(文中敬称略)