顧客は必ずしもユーザーではない

「真のユーザー」のニーズを反映した特殊鏡の数々 
(上)埼玉・川口にあるコミー本社のショールームのなかには、さまざまな特殊鏡が展示されている。 
(下)店内のお客さまの様子がわかり、すぐに接客対応ができる。

コミーは回転ミラックスのほかにも、大型店内凸面鏡「オーバルミラー」といった新製品を次々に送り出した。なかでも大きく成長したのが、87年に発売した「FFミラー」だ。独自技術で鏡の表面に微細な溝を入れることによって、平面鏡なのに凸面鏡と同じように広角に見ることができる。「凸面鏡は出っ張りがある分、どうしてもスペースを取ってしまう。それに比べて、FFミラーはスペースが不要なので、狭い空間にも設置が可能だ」と小宮山社長はいう

FFミラーは、エレベーターの扉の脇に人の乗り降りの確認用として取り付けられたり、車庫の入り口に出入庫の確認用として設置されたりしている。前に紹介したATMの後方確認ミラー、旅客機のビン内部の鏡もFFミラーなのである。

「95年に出張で旅客機に乗った社員が、ビンの内側についている平面鏡に気づいた。その鏡は傷だらけで、ビンの奥のほうを見ることもできなかった。FFミラーであれば、特殊プラスチック製なので傷つきにくいし、広角に見ることができる。航空機にうってつけだと考えた」

小宮山社長が国内の航空会社に持ち込んでみると、客室乗務員からは大好評。ビンのなかをチェックする場合、ステップに上がって手で探る必要があったが、FFミラーを取り付ければ、通路から目で確かめられるからだ。そこで、航空会社の知人の紹介でボーイングに売り込み、97年から旅客機用にFFミラーの納入が決まった。

その後、FFミラーを取り入れている航空会社に出向いて、製品の使われ方を調べたところ、欧州のある航空会社は、客室乗務員がテロ対策の“爆弾チェック”にFFミラーを使っていた。

「客室乗務員や乗客の忘れ物チェック」と想定していた小宮山社長は、「作り手とユーザーの考え方のギャップを改めて感じた」という。