空気を読む。よく耳にする言葉です。会議や上役との折衝、取引先との商談など様々な場で、空気を読むことが求められます。ところが、空気を読む人間ばかりで仕事が停滞した場面では、KYな人間が必要とされることがあります。空気を読む人と読まない人とでは、どちらが成功するのでしょうか。
空気を読むことの是非を考える際には、「セルフ・モニタリング(SM)」が役に立ちます。SMとは、簡単に言うと、相手の気持ちを察することができること(感受性)、その場に合わせた適切な行動がとれること(変容性)を指します。つまり、SMが高い人ほど、空気を読むのが上手い人です。対応力に優れているのですが、優柔不断とも言えます。一方で、SMが低い人は他人を気にせず自分の信念に基づいて行動する人です。日本のような空気を読むことが美徳とされる社会では、KYと呼ばれ、生きづらいかもしれません。
周りの人がどれくらい有休をとっているか
日本が空気を読む文化であるということは、SMが高いほうが望ましい社会だと言い換えられます。ところが、それが今の社会の停滞を招いているのです。近年のブラック企業の蔓延や、最近では大手広告代理店の若手社員の過労自殺のニュースなどを受けて日本人の働き方が見直され始めています。こうした労働問題の根本にもSMの高さがあるのです。
有休取得率がいい例です。日本人の有休取得率の低さはご存じの通り。ある調査によると、有休取得の日数を決めるのに一番考慮するポイントは、「周りの人がどれくらい有休をとっているか」だと言うのです。周りが働いているのに有休なんて気が引ける。皆が頑張っているのだから私も──そんなSMの高さが今の時代の働きづらさを招いているのです。
ビジネス全体を見ても、SMが高いために他社を参考にして、最大公約数的な製品をつくるメーカーが溢れています。日本のメーカーはそのように無難な製品を生み出してきました。しかし、現代の市場ではこのつくり方は通用しません。現代は、SMが低いからこそ生み出せる革新的なアイデアが求められている時代です。代表的な例がスティーブ・ジョブズです。周りの意見は聞かない。しかしいいと思ったアイデアは信念を持って商品化し、即座にリリースする。そうして彼は成功したのです。
トランプ大統領が評価された理由
日本以外の国では空気を読むことよりも、一貫性の高さが評価されることが多いようです。トランプ大統領にしても、選挙運動中のブレない強硬的な姿勢が評価されたと見ることもできます。ただ、SMが低い人が大きく成功するには条件があるようです。職人肌の天才だった本田宗一郎には、藤沢武夫という深い洞察力と先を読む力に長けた名参謀がいました。それによって世界に冠たるホンダが生まれました。宮崎駿監督の陰に、世の中の空気を読む能力を持った鈴木敏夫プロデューサーがいたからこそ、スタジオジブリは名作を世に出せたのでしょう。
変革を起こすKYな人をサポートする、空気を読む人。このベストマッチングが生まれたときに、ビジネスは大きく成功するのでしょう。