「議論するに値しない」と上司を見限る部下
沈黙もまた、口ぐせだ。
深く考えたうえで押し黙り、自分を見失うことなく、出世していく人がいる。それができずに、必要以上に話したり、書いたりして、破滅する人もいる。
数年前、社会人向けの通信教育の教材をつくる会社(社員数800人)でみかけた光景だ。
30代の女性の部下が、「A」という質問をする。40代の女性の上司(部長)は、「B」という回答をするかと思ったら、なぜか、「C」と答えた。会話になっていない。そこから、2人は意見のぶつかり合いになっていく。
その場にいた筆者には、30代の女性の言い分が正しいように思えた。だが、40代の女性の上司は、「あなたは、聞く力が弱い!」と言い放ち、反論をさせないようにする。管理職としての権力で、ねじ伏せるのだ。
「……」
そこから先、30代の女性はひたすら黙っていた。
拙書『会社で落ちこぼれる人の口ぐせ 抜群に出世する人の口ぐせ』(KADOKAWA)を書くために、この通信教育の教材をつくる会社の知人に確認すると、その時30代だった女性は昨年、人事異動となり、ほかの部署の課長となっていた。管理職へと昇進したのだ。同世代の中では、早い出世だという。
この女性のように、出世する人の沈黙からは学ぶべきものがある。たとえば、上司と仕事の進め方をめぐり、大きな意見の隔たりがあるとする。その際、どのようにするべきか、と心の中で考える沈黙だ。
上司は本当に話し合える人であるのか、さらにいえば、経験や力量をかね備えているのかどうか、を部下の立場で見きわめることだ。
おそらく、この30代の女性は、40代の上司とぶつかったとき、「この人は議論するに値しない」と判断したのだろう。それはきっと賢明な判断だったのだと思う。日ごろから、上司たちの力量を観察し、力量を見抜いていたのかもしれない。
聞く限りでは、この女性は日ごろから、議論をすることがないのだという。相手のレベルを見定め、沈黙を守るのだろう。