正反対の2人のパフォーマンス

「クリントン家とブッシュ家の戦い再び」と予想されていたアメリカ大統領選挙。ところがふたを開けてみれば、ジェブ・ブッシュは伸び悩み、泡沫候補と思われていたドナルド・トランプがクリントン優勢の予想を覆して勝ち抜いた。彼の放つ数々の暴言は、身内の共和党からも批判されているにもかかわらず、旋風は吹きやまない。

一方、大統領から首相へ、そしてまた大統領へと返り咲いたロシアのウラジーミル・プーチン。敵対する人物が次々と不審な死を遂げるなど、冷酷な独裁者と非難する声も少なくないなか、不動の長期政権を確立している。

敵が多いにもかかわらず支持を集める2人。ホットなトランプと、クールなプーチン。タイプの異なる東西のワンマン的リーダーから学ぶものはなにか。内閣官房参与も務め、ダボス会議で数多くの世界の指導者と接してきた田坂広志さんにうかがった。

世界経済フォーラムGlobal Agenda Councilメンバー 田坂広志氏

「大切なことは、カリスマ的なリーダーになるほど、言葉を超えたメッセージを発する力が重要だということです。トランプは身振り手振りが大きく派手ですが、あれは力強さを演出する基本的なスタイル。加えて、彼は言葉の<ため>がとてもうまい。スピーチは<ため>を覚えるだけで、相当上達します。普通の人は、正しいと思っていることをだらだらと話す。でも、トランプは『誰に金を出させる? ……それは決まっている!……メキシコにだっ!』とやるでしょう。十分に<ため>をつくり期待を高める。聴衆も次に発せられる言葉はわかっているのです。わかっているから『メキシコにだっ!』とトランプが叫んだ瞬間に、<そうだ、そうだ>とワーッと立ち上がって拍手する。話術としては実に見事。次に何を言うのだろうと聴衆の関心を引くことができれば、スピーチは8割方成功です。

聴衆が拍手し、沸き立つ時間もちゃんと計算している。その間は決して喋らない。そして、ポーズをとって<喋りますよ>というサインを出す。すると聴衆も、よし、静かに聞こうとなる」

会場の空気を指揮者のようにコントロールできているわけですね。

「あれは、アジテーションの技術です。すぐれた政治家は、アジテーションとスピーチをうまくミックスする。オバマ大統領はロジカルなスピーチも見事ですが、彼のキャッチフレーズ“We can change”は、どのようにして、何をチェンジするのか、何も説明していません。ただ“We can change”と叫ぶだけで、聴衆は熱狂する。その意味で、あれは一種のアジテーションです」