女優
草刈民代さん

1965年、東京都生まれ。フィギュアスケートのジャネット・リンに憧れてバレエを始める。高校生から牧阿佐美バレヱ団に参加し、83年デビュー。その後もフリーで活動し、ソビエト文化省の招聘で初の海外公演を行う。96年、周防正行監督作品「Shall we ダンス?」で女優デビュー、同年に周防氏と結婚。2009年、14回の公演をもってバレエを引退。「終の信託」で日本アカデミー賞を受賞。2016年、ミュージカル「グランドホテル」に出演。
 

私、本当はものすごく飽きっぽいんです。子供の頃から何をやってもすぐやめてしまいました。その性分を自覚していたので、小二でバレエを習いたいと思ったときも「親に頼む以上、簡単にやめられない。続けられるのか」と数カ月間、自問したんです。結果として、バレエだけは長続きし、引退するまで35年間、踊り続けられました。

現役の頃はいつもバレエが頭から離れずピリピリしていました。主人(映画監督の周防正行氏)と結婚してからもそれは変わらず、たとえば、体が冷えるといけないので、真夏でも寝室の窓を締め切って寝ていました。当然、エアコンはかけません。主人はよく辛抱してくれたなぁと思います。

彼は私がキッとなると危険を察知してどこかに行っちゃうんです。「さわらぬ“民”に祟りなし」って。今も冗談で言われたりしますが、引退して気持ちに余裕ができ、お互い楽になりました。

食事に関しては、30歳で腰を怪我してから気を使うようになりました。根本から体を改造しなくてはならなくて、肉は引退までの13年間、一切食べなかった。「魚亭かみや」は私に合わせたコースを組んでくれるので助かります。主人がふらりと見つけたお店ですが、私の両親も通っているみたい。「天ぷらかねき」は亡き祖父が気に入っていた職人さんのお店。子供の頃からのお付き合いで、締めの天ばらまでしっかり食べますよ。

トレーニングは今も続けています。ただ、目的は逆。もう踊るためのトレーニングは必要ありません。使いすぎて疲労していた筋肉を緩ませ、身体をニュートラルな状態に戻しているところです。

ミュージカルの仕事をいただいてからは、発声のトレーニングも始めました。バレエとは反対で、やはり体が緩んでいないと声は響かない。体が変わると声も変わる。その変化がとても面白く、さらに深めていきたいと思っています。

舞台、映画、テレビとそれぞれに魅力があって、見せ方も異なる。女優として目指したいことも見えてきました。バレエ以外に興味が持てたのは主人のお陰。結婚していなかったら女優になるという選択は生まれなかったと思います。文章を書くようになったのも主人の影響です。彼はいかにも日本的に見えますが、私達夫婦のあり方は欧米的というか、妻である私をよく褒めます。たまに、恥ずかしいときもありますが。でも、その無防備さが面白いんですよね。