内館牧子さん
1948年、秋田県生まれ。武蔵野美術大学卒業後、三菱重工業に入社。13年半の会社員生活を経て87年に脚本家デビュー。代表作はNHK連続テレビ小説『ひらり』、大河ドラマ『毛利元就』など。大の格闘技ファン、特に好角家で知られ、2000年に女性初の横綱審議委員に就任。03年から東北大学大学院文学研究科で学び、著書『女はなぜ土俵にあがれないのか』はその修士論文をもとにしている。現在、東北大学相撲部総監督を務める。
実はいますごく凝ってるのが料理作りなんです。
以前は、そんな時間があるなら相撲やプロレスをもっと見たいと台所にほとんど立たなかったのに、これは大病したのがきっかけ。7年前に出張先の盛岡で倒れて、病院に運び込まれたら心臓弁と動脈の急性不全。大手術を受けて奇跡的に生還しました。
このとき主治医から指摘されたのが食生活の乱れ。仕事関係者との重い会食がつづいたかと思えば、原稿と締め切りに追われて食べない日もあったりで、食事の時間も量もバラバラ。大病して初めて、食事の重要性を思い知りました。自分で料理しようと決めて、入院中から栄養士に料理や栄養についていろいろ教わりました。
それ以来、家にいる日は台所に立って三食とも自分で作ります。栄養のバランスが第一とはいえ、やっぱり美味しくないと心が弾まない。パソコンも携帯電話も持っていませんので、情報源はもっぱら新聞や雑誌。目に留まった記事を切り抜いて肉料理、魚料理、麺類など八種類のスクラップブックに分類しています。
脚本家にとって、何よりの勉強はいい映画を見ることだと言われます。それと同じで、プロの料理は別格で、頂くことが何より勉強になるんです。
その意味でも、今、私の一番のお気に入りは銀座「つるとかめ」。女将さんとは長いお付き合いで、オープンしてさっそく伺いました。そうしたら、板長さんはじめスタッフ全員が若い女性なんですよ。これにはびっくりしました。包丁を握る彼女たちは凛々しくて“男前”そのもの。旬の食材を生かした料理は目に鮮やかで、しっかり修業を積んできたことは繊細な味からもわかります。相撲の土俵に女が上がるのは反対ですけど、板場に女性が立つのはいいものだなぁって、すっかり虜になりました。二カ月間に六回も予約を入れたほどです。
溜池山王の「過門香」は、私の事務所から徒歩三分ほどの距離。秘書や近くに住む母と一緒に、“わが家のダイニング”という感覚でよく利用します。そういう手軽さがある一方で、北京ダックやフカヒレを使った高級料理も味わえる。忘年会やお祝い事で個室の丸テーブルを囲むことも。ラグビー選手やボクサー、プロレスラーの友人を誘ったときも、みんなボリュームと味に満足してくれる。スタッフもいいし、名店なのにコスパもわるくないと思いますよ。