小説家 万城目学

1976年、大阪府生まれ。京都大学法学部卒業。2006年、第4回ボイルドエッグズ新人賞受賞作『鴨川ホルモー』でデビュー。以降、『鹿男あをによし』『プリンセス・トヨトミ』などのベストセラーを生み出す。エッセー集には『ザ・万歩計』『ザ・万字固め』など。11年から「週刊文春」に連載していた初の時代小説『とっぴんぱらりの風太郎』が完結。今年9月に文藝春秋より単行本化された。また、滋賀県の琵琶湖を舞台にした『偉大なる、しゅららぼん』が映画化され、来年3月に公開予定だ。


 

この夏の僕のテーマは「気力と体力の復活」でした。2年にわたる週刊誌の連載を終えて、心身ともに弱っていたので。

連載を始めたときは、もっとトントン進む予定だったんです。それが半年延び、さらに半年延びとなったのは、僕のプランがずさんだったからでしょう。ラストは決まっていたものの、そこに持っていくまでに書くことがどんどん出てきてしまった。

これだけ長くなると、頭に書いた内容を忘れてしまうんですね。1章分を書き終えると、その都度、最初から読み直して、まだ解き明かしてない伏線を拾ったり。しかも、ストック原稿なしに続けてきたので、締め切りの原稿が上がったら即座に送って、また次の週の展開を考えるという繰り返し。週刊誌の連載は、もう2度とやりたくない(笑)。

体調を戻すために始めたのがジム通いです。といっても、使うマシンは腰痛と肩こりに効くものだけ。行くのは月1、2回。

心の回復のために、ピアノ教室にも入りました。レッスンは月3回で1回30分。クラシックの曲をまともに弾けるようになるには、最低でも4年はかかるそうですけど、僕の目標は3カ月。弾きたい曲にドビュッシーの「亜麻色の髪の乙女」を挙げたら、先生に失笑されました。

頭のリフレッシュにベトナムにも行きました。一人旅行は大学以来。行くまでは浮かれていたのに、空港から宿に向かううち、むっとくる暑さ、雑然とした空気、神経がキリキリする無作法な交通ルールなど、かつて行った東南アジアの旅の記憶が蘇ってきて「10日間もここにいるのか」と暗い気分になって。まぁ、その後は楽しくなりましたけど。

向こうでは、気温40℃の中を毎日20キロぐらい歩いて、戦う気力と体力を養いました。さながら、自衛隊のレンジャー訓練でしたね。

この旅行では日本人向けのツアーにも参加してみましたが、初対面で「なんぼ稼いでるの?」と聞いてくるのは関西人。僕も大阪に住んでて、小説家に会ったら聞いてると思います。でも、東京に暮らして10年以上経つので、最近は関西の人たちとしゃべっていると、ズカズカズカって音が聞こえてくる。もっとも、その分、「やらしいこと聞きなさんな」とか、上手に切り返す反射神経も悪くなってるなと感じますね。

そういえば、連載中はおいしいものを食べたいという意欲が強くなったのが不思議でした。居酒屋本を読んだり、深夜に食べログをチェックし続けたり。ここに行ってこれを頼んで、とイメージするのが楽しいんです。お店も開拓しましたが、お酒は強くないので飲んでは撃沈の連続。

それなのに、連載を終えた今はまるで興味がなくなっている。一体、どういうことなんでしょう。