作家
道尾秀介さん

1975年、東京都生まれ。第一次ファミコン世代で、ファミコンにハマる幼少期を過ごす。17歳で初めて小説を読み、大学1年生で小説を書き始める。大学卒業後、会社員生活をしながら2004年に『背の眼』で第5回ホラーサスペンス大賞特別賞を受賞して小説家デビュー。専業作家に転身する。トリックを使いながら、人間を丹念に描く作風が人気を呼び、2011年『月と蟹』で第144回直木賞受賞。近著に作家10周年記念作品の『透明カメレオン』『笑うハーレキン』等がある。
 

僕は食べることがすごく好き。料理も好きで、お酒のあてをよく作ります。たとえば雑誌に「チーズの味噌漬け」といった変わったものが載っていたりすると、すぐに作りたくなる。お酒はなんでも飲めますが、食べたいと思った料理に合わせて決めます。まずは食べものありき、なんです。僕は基本的に「自分が作ったものはうまい!」と自画自賛するタイプ(笑)。ほかの方がそう思うかわかりませんが。

「ビオッツァ」は、僕の大学時代の同級生がシェフとして切り盛りしているスペイン・バスク地方の郷土料理のお店。彼は大学時代からモテてリーダー格の存在でしたが、こんな素敵なお店のオーナーになるとは。バスク地方で何年か修業をしていて、一緒に働いている奥さまとスペイン語で会話をしているのがカッコいい。リンゴ酒のシドラ(シードル)の注ぎ方もバスク風で粋です。空気と触れさせると香りが引き立つので、なるべく高いところから、サーッとサーブしてくれる。そんな雰囲気もあいまって、料理がよりおいしく感じられます。

人と話すのが好きなので、飲み屋で隣り合った人とも仲良くなっちゃいます。たまたま知り合った家具職人さんの仕事の話が、とにかく面白くて、小説の主人公を家具職人にしたこともあります。

「藤田」の大将の藤田さんも、通っていたイタリアンで隣り合った人なんです。イタリアンのマスターが、数あるお店の中で唯一褒めていたのが「藤田」で、食べに行くようになりました。料理はコースのみで、寿司と天ぷらがメーン。僕の食の歴史の中で、もっともおいしい和食といっても過言ではないです。

料理と同様、音楽も僕の人生に欠かせません。以前はバンドでギターと歌をやっていて、今は“ボーンズ”という手首を回転させて打ち鳴らすアイルランドの楽器を演奏しています。単純な音の連続ですけれど、ダンスなどにぴったりマッチして、ステージではよくコラボしています。

音楽を通して知り合った人とも、よくお酒を飲みますね。モノを書くことは孤独な作業ですし、今後職業作家としてちゃんとやっていけるのかという不安がいつもつきまといます。そんな中で、時折気の合う仲間と、おいしい料理と酒と音楽を共有できるのは至福の時間。こんな幸せなひとときがあれば、創作の泉も枯れないかな、と思うんです。