今や、残業するほど仕事ができないと思われる時代。限られた時間で最大の成果を出すには──。経営トップ、心臓外科医、3つ星シェフ……斯界のプロにそのテクニックを聞いた。

過去に出した皿は2度出さない

作業のスピードを大きく左右する、段取り。段取り力を身につけるには、料理に熟達するといい。料理の世界では、複数の作業を同時並行でこなすことが常に求められるからだ。

では、一流の料理人はどのように段取って作業を行っているのか。8年連続ミシュラン3つ星を獲得する「カンテサンス」のオーナーシェフの岸田周三さんに伺った。

カンテサンス オーナーシェフ 岸田周三氏

カンテサンスは、メニューのないフレンチレストランだ。料理はおまかせのみで、ディナーならデザートを含めて13皿前後。これだけの皿数を1つのコースに揃える店は、世界でも稀だろう。

驚くのは、その皿がテーブルごとに違う点だ。スペシャリテである山羊乳のバヴァロワとメレンゲのアイスクリーム以外、そのお客が過去に食べた料理は出さない。同じ日、同じ時間の予約でも、初訪なら店のエッセンスを詰めたコースを組み、リピーターには新作で揃えていく。アレルギーの有無などで、同じテーブルでも異なる料理を出すこともあるそうだ。

シェフを含めた13人のスタッフで、そんな複雑なコース料理をミスなくスムーズに出すために、岸田さんが最も重視しているのが、顧客情報の管理だ。

「来店履歴は、一人ひとりのファイルをつくり、PCに入力しています。来店日、時間、人数、苦手なものなどから出した料理までを記録する。次に予約が入ったときには、そのファイルをもとにコースを考えるので、以前出した料理とダブることはありません」

PCを利用するのは検索性にある。名前を入力するだけで、開店から9年の間に蓄積してきた膨大なデータから個人のファイルを引き出せる。おぼろげな記憶を辿りながら手書きのノートをめくるよりも、はるかに効率がいい。