その顧客データをもとに組み立てたコースの内容は、午前と午後、賄いの前のミーティングでスタッフ全員に周知される。料理のことだけでなく、「このお客様は左利き」といった細かい情報も共有することでよりスムーズなサービスが可能となる。

「賄い前にやるのは、わざわざ集めなくても全員が揃うため。時間は10~15分と短時間です」

長い会議は休むに似たりで、短時間で要点を端的に伝達したほうが全員が共通の理解をできるというわけだ。

決定したコース内容は、テーブルごとにすべて紙に書き出し、調理場の見やすい場所に張り出す。営業時間中は常にこの用紙を確認しながら調理をする。情報の共有と可視化。この二重の段取りによって、効率よく料理をつくり、サーブすることができるのである。

もっとも、どんなに最善を尽くしても、不測の事態は起こる。「台風の影響で予定した食材が届かないということはよくあります。その場合は、塩漬けの肉など替わりに使えるものとこれから手に入る食材を調べ、何がつくれるかを考える。恒久的に新作を開発しているので、突発的な事態にも焦らずに対応できるのだと思います」。

普段から同じ料理を漫然とつくっていたら、緊急時に対処するのは難しいだろう。日頃から自分を進化させる姿勢が、柔軟な発想とアイデアにつながるのだ。

ただし、新作をつくり続けるというのは、決して容易なことではない。新商品の開発にあたっている人であれば、その苦労は理解できるだろう。発想が行き詰まったときの解決策は古典回帰だ。

「繰り返し読んできたフランス料理の古書でも、テーマを持って開くと新たな発見があるんです。ものすごくおいしい食材に出合って、これでなにかできないかとページをめくると古典的な技法の中にヒントを見つけるということは少なくありません」

まさに温故知新。ビジネスシーンで判断に迷ったときにも、名著と呼ばれる思想書、哲学書などの古典や過去の成功したビジネスモデルをひもとけば、解決のヒントになることもあるだろう。