弘兼憲史の着眼点

▼大企業の経営者は日本経済全体に責任あり

私の漫画「島耕作」では、物語のリアリティを高めるため、複数の実在する人物をモデルにしています。シリーズが「会長」に移ったとき、モデルとした1人が新浪剛史さんでした。

漫画では、島が社長を務めた「テコット」の社長交代会見で、島と新社長がこんなやりとりをします。

新社長「社業はできる限り、社長の私が頑張ってやりますので、島会長におかれましては、日本経済発展のために存分な力を発揮してください」

島「社業30%、財界活動70%のスタンスでいこうと思っている」

このシーンを描くにあたり念頭にあったのが、ローソンで社長、会長を務めた新浪さんの働き方です。大企業の経営者は、自分の会社だけでなく、日本経済全体にも責任を持たなくてはならない。新浪さんの多忙な日々をうかがっていると、その志を感じます。

▼「いまが日本を変える最後のチャンスだ」
弘兼「いまもトレーニングは続けているんですか」新浪「はい。週2回、1時間半ほど。でもなかなか時間がとれません」

新浪さんが社業以外で時間を割いているもののひとつが、2014年9月から務めている経済財政諮問会議の民間議員としての仕事です。会議では議長である安倍晋三首相のもとで、国の予算編成の方針や、経済や財政運営の基本方針「骨太方針」などを議論します。さらに新浪さんは諮問会議の下に今年新設された「経済・財政一体改革推進委員会」の会長でもあります。

会合は月3回ほど。そのために週末の夜、休日返上で資料の読み込みや勉強会を行っているそうです。午後7~8時から始めて、遅いときは午前1~2時頃まで。どうしてそこまでやるのか。尋ねると、こんな返事でした。

「経済財政諮問会議は日本経済のコントロールタワー。ここはしっかり、真面目にやらなければいけません。いまが日本を変えられる最後のチャンス。ここで勢いがつかなかったら、日本はダメになってしまう。だから納得するまで資料を集めて、自分の言葉で発言するようにしているんです」

いやはや島耕作以上の熱い男です。

弘兼憲史(ひろかね・けんし)
1947年、山口県生まれ。早稲田大学法学部を卒業後、松下電器産業(現・パナソニック)勤務を経て、74年に『風薫る』で漫画家デビュー。85年『人間交差点』で第30回小学館漫画賞、91年『課長島耕作』で第15回講談社漫画賞、2003年『黄昏流星群』で日本漫画家協会賞大賞を受賞。07年紫綬褒章受章。
(田崎健太=構成 門間新弥=撮影)
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