「奇跡のワイン」のオーナーはゲーム会社、カプコンの創業者――。カプコンの辻本憲三会長が個人事業として、「ケンゾー エステイト」を世に送り出したのは2008年。通常、ボトル1本40万円を超えることもある「カルトワイン」並みの品質でありながら、1万~2万円ほどの手頃な価格に抑えたこのワインは、たちまち話題をさらった。「ストリートファイター」「バイオハザード」「モンスターハンター」など、数々のヒットゲームを手がけてきたカプコン創業者はなぜ突如として個人でワイン事業に参入し、成功をおさめることができたのか。そのブランドを育てるまでの軌跡を追った。
40歳から90歳までファン層が急激に拡大
【弘兼】辻本会長との出会いはワインでしたね。
【辻本】ええ、弘兼先生をはじめワインで様々な方とつながることができた。それまでゲームのファン層に当てはまらない40代以上の方にはカプコンはあまり知られていなかった。それが、ワインのおかげで40歳から90歳までの多くの方にカプコンという会社を知ってもらえるようになりました。
【弘兼】08年に「ケンゾー エステイト」としてのファーストヴィンテージを世に送り出すと、一躍高い評価を受けて、カリフォルニアワインの旗手と呼ばれるようになりました。ゲームからいきなりワイン事業に乗り出したのは勝算があったからでしょうか。
【辻本】それが偶然というか、成り行きなんです。今から20年以上前、カプコンのゲームはアメリカで大人気だったので、販売網をさらに拡大させるために、私はシリコンバレーを頻繁に訪れていました。すると「子どもがゲームばかりしていて、家の中に張りついているのはよくない」という批判の声が上がりはじめた。だったら「屋外のアミューズメントパークをやろう」と、シリコンバレーに近い、カリフォルニア州のナパ・バレーという場所に470万坪の土地を購入したのが、そもそものはじまりです。
【弘兼】なるほど。アメリカにとっては、日本のゲームが自国で飛ぶように売れて儲けを出していたことが、面白くなかった。言ってみれば、対アメリカの貿易摩擦対策だったんですね。
【辻本】ええ。世論に対抗する手段として、アメリカにあるカプコンの子会社が購入した土地だったんです。もともとはクロスカントリー用の乗馬クラブでした。