この土地で何をするのがベストか
【弘兼】その乗馬クラブをどうしてワイン畑に変えたのでしょうか。
【辻本】商売として上手くいかなかった。「やりたいことがあるなら、やってみろ」と40億円を投入して、乗馬クラブとして運営していたのですが、あっという間に負債が70億円を超えてしまった。カプコンも東証上場を目前にしていたので、1998年に簿価で最終的に私が土地を買い取ることにしました。
【弘兼】負債を抱え込むことになるわけですが、持ち直せるという見通しがあったのでしょうか。
【辻本】「死ぬまでにその土地を使って何かできればいいだろう」と軽い気持ちで考えていました。そうして周辺を見渡してみたところ、辺り一面に葡萄畑が広がっていることがわかったんです。そこでは「カルトワイン」と呼ばれる高品質、少量生産のワインが造られていました。
【弘兼】本当に、180度の方向転換だったのですね。
【辻本】だって、そうするしかないじゃないですか。馬を走らせておいても仕方がない。それならアメリカのワインの名産地でカルトワインを造り、日本人に飲んでもらいたいと考えました。
【弘兼】驚くことに、葡萄栽培にはデイヴィッド・アブリュー(※1)を、醸造にはハイディ・バレット(※2)という、2人のカリスマを起用しています。何か特別な口説き文句とかがあったのでしょうか。
【辻本】いやいや簡単ですよ。仕事をするときは最も結果を残す可能性の高いところを選びますよね。2人とも私の持っていた土地に可能性があることを知っていたんですよ。うちの土地は山ですが、山の上というのは寒暖差が特に大きい。そして水がいい。畑の横にある湖の水は、雨が降って溜まったのではなくて、土から湧いたものです。もう、飛びっきりのミネラルウオーターですよ。さらに、辺り一面が私の土地なので、隣近所に遠慮せずに土木工事ができることも大きい。
【弘兼】アブリュー氏の指示で、それまで植えていた葡萄の木をすべて引き抜いた後、土を1~2メートル掘り起こしたとか。
【辻本】ええ。土木工事で石ころや雑草、木くずなどを全部取り除いて、土の中の水の流れを一定方向に整えた。つまり、味のばらつきをなくすため、どこも同じ条件で栽培可能の状態にしたんです。
※1 デイヴィッド・アブリュー……「コルギン」「ブライアント・ファミリー」「ハーラン・エステイト」など数多くのカルトワインを生んだ葡萄を栽培。
※2 ハイディ・バレット……醸造した「マヤ」や「スクリーミングイーグル」は100点満点で表すワインの評価法で満点を獲得。