弘兼憲史の着眼点

▼ストリートファイターはなぜ海外で人気なのか

カプコンのゲームといえば、「バイオハザード」で遊んでいた娘がものすごく怖くて夜中にできないと言っていたことを思い出します。今回の対談前に「モンスターハンター」のデモ映像を見せていただいたのですが、もはや映画といえる精緻な映像に驚きました。

辻本さんのお話を伺いながら、ゲームは国境を軽々と越えるエンターテインメントなのだと考えていました。私がやっているコミックは文字数が限られており、絵があるため小説などの文学に比べれば楽とはいえ、国外に持っていくには翻訳が必要です。また『島耕作』のような日本的ビジネスマンの世界は、違った文化の国ではなかなか理解されない面もあります。

一方、カプコンのゲームは最初から世界標準で作っています。その代表的なソフト、「ストリートファイター」について辻本さんはこう分析します。

「ハリウッドで一番売れているのはアクションです。戦うことは人間の本能です。だから世界中、どこに持っていっても当たる」

ゲームの世界でも日本人が得意とする分野とそうでない分野があるそうです。たとえばアクションでも戦争物になると、実際に軍経験のあるアメリカ人などには敵わないといいます。もう1つはサッカーゲーム。サッカーはクラブに所属する選手の移籍が多いので、データを更新し続けねばなりません。

▼ゲームとワインは国境を超えていく

現在、カプコンでは日本のほか、サンフランシスコ、バンクーバー、ロンドン、韓国、そして台湾で開発者を集めて世界展開を行っているそうです。

国境を気にせず、世界で最高のものを作る。それは辻本さんが手がけるゲーム、ワインに共通するのでしょう。

対談の後半での辻本さんの言葉が耳に残っています。

「人のできないことをやる。お客さんはほかと同じものでは喜びませんからね」

至極シンプル、しかし、それを突き詰めるのが難しい――。

弘兼憲史(ひろかね・けんし)
1947年、山口県生まれ。早稲田大学法学部を卒業後、松下電器産業(現・パナソニック)勤務を経て、74年に『風薫る』で漫画家デビュー。85年『人間交差点』で第30回小学館漫画賞、91年『課長島耕作』で第15回講談社漫画賞、2003年『黄昏流星群』で日本漫画家協会賞大賞を受賞。07年紫綬褒章受章。
(田崎健太=構成 門間新也=撮影(対談))
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