2012年3月、携帯電話キャリアの最大手NTTドコモは、有機野菜や無添加食品の宅配会社である「らでぃっしゅぼーや」の株式を友好的な公開買付で取得、同社を子会社化しました。

NTTドコモは12年3月期の連結売上高が4兆2400億円、営業利益8745億円という巨大企業です。一方のらでぃっしゅぼーやは12年2月期の年商が220億円、営業利益は3億円弱。なぜドコモがこのように小さな、明らかに異業種に属する会社を買収したのか、不思議に思った方も多いでしょう。

買収の背景にあるのは、携帯電話会社を取り巻く事業環境の変化です。

日本国内では既に携帯電話の普及は一巡しています。今後はスマートフォン比率の上昇、「Xi」対応データカードやタブレットPCの接続により、データ通信量の増加は見込めるものの、売り上げ的にはかつての急成長期から安定成長期に移行しているというのが一般的な見方です。

このため各携帯電話キャリアには「国内の通信料収入だけに頼っていては、企業として大きな成長は見込めない」という強い危機感があります。

8分野に集中投資

打開策の1つが海外への進出であり、NTTドコモも06年から09年にかけ積極的な海外投資を行いました。フィリピンの長距離電話会社PLDTなどへの出資に加え、08年にインドの通信会社タタ・テレサービシズとバングラデシュの通信会社TMインターナショナルに資本参加しています。加えて、09年にはドイツのモバイルコンテンツの配信会社ネット・モバイルを子会社化、上位レーヤーのビジネスにも進出しています。

一方、国内で急速な成長が見込まれているのが、通信会社が提供するインフラの下でビジネスを行う、楽天やゾゾタウンのようなネットビジネス業界です。

実質無借金経営のNTTドコモには潤沢な手元資金があり、目の前により高い成長性が見込める業界があるとなれば、手持ちのキャッシュを活かして取り込んでいくのは当然の経営戦略といえます。