【弘兼】なるほど。ところで、辻本会長はもともとワインがお好きだったんですか?
【辻本】いえ、自分で造りはじめるまではそこまで好きではなかった。でも、商売でやるならば世界中のワインを知らないといけない。だから世界中から美味いといわれるワインを1万本ぐらい買い集めました。
【弘兼】1万本!
【辻本】1本100ドル以上、一番高いもので120万~130万円かな。それを何人かで飲み比べるんです。いろんなワインを置いて一斉に飲んだら、何が美味しいかはすぐにわかる。当然のことながら、美味いワインから真っ先になくなり、まずいワインは残る。
【弘兼】ケンゾー エステイトも一緒に飲み比べるのでしょうか。
【辻本】はい。決まってうちのワインはすぐになくなります。
【弘兼】そうした取り組みを積み重ねてワイン事業をここまで発展させてきたのですね。ゲーム事業とワイン事業、2つの事業に共通点はありますか。
【辻本】ゲームとワインのユーザーはまったく違いますからね。共通するのは、ゲームもワインも日本だけにとどまらずに、世界トップクラスのブランドを造れるということです。日本でトップというだけではあまり意味がありません。サッカーならばワールドカップで、野球ならばメジャーリーグで勝つことに意義がある。やはり事業においても、世界を舞台に戦わなければならない。
【弘兼】世界市場といえば、アクションゲームの先駆けとなった「ストリートファイター」は、94年にハリウッドで映画化されました。
【辻本】あのときはカプコン側も40億円ほど映画に出資しました。映画会社がどのようなやり方をしているのか知りたかったのです。でも蓋を開けてみると、我々が参入するにはあまりに割に合わないシステムだった。だから、それ以降は自分たちが映画製作に加わるのはやめ、向こうから依頼がきたらライセンスだけ与えることにしています。ただ、公開から20年が経過した今なお、世界中から配給収入が入ってきます。それに映画を作ったことで、「ストリートファイター」の存在を世界中の人の頭にすり込むことができた。だから発売から20年以上経っていても、いまだに続篇のゲームを出せば100万本以上売れるんです。
【弘兼】根強い人気があるというのも、カプコンの強みですね。そうしてカプコンは90年に株式公開しました。しかし、「スーパーファミコンブーム」が去ると、94年度には営業赤字に転落します。それからというもの、辻本さんは開発部門のコスト管理に手をつけたそうですね。その方針に反発してカプコンから独立した人間もいたと聞きます。優秀な人間が出ていくことに対して怖さはありませんでしたか?
【辻本】カプコンの第1期生はチームを連れたまま、ほとんど出ていきましたね。彼らは自分の好きなことをやりたいというのだから出ていくのは仕方がない。ただこういう見方もできます。彼らは年を取っていくと会社の上層部で仕事をすることになる。しかし、ゲームを作る才能がある人間が必ずしも経営の才能があるわけではない。