ビール市場の大変化は挑戦者にとっての商機

サントリーのビール事業は1963年に始まった。だが、45年間赤字事業だった。黒字転換したのは46年目の2008年のこと。要因は通常のビールより2割ほど高い「ザ・プレミアム・モルツ」の強化だった。華やかな香りと濃厚な味わいを武器に、プレミアム市場を拡げた。
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2014年度事業別売上構成と主力商品

【弘兼】一番はじめの「プレモル」は、ものすごく香りが強かった。だんだん穏やかになってきて、また最近リファインをして品質に磨きをかけていますよね。

また2015年3月に出た「マスターズ・ドリーム」はさらに美味しい。ただ、価格もさらに高い。コンビニの店頭では1本300円以上します。

【新浪】ありがとうございます。「マスターズ・ドリーム」のヒットは心強かったですね。何しろ開発に10年以上をかけていて、非常にコストがかかっています。テイストも、うま味と香りを追求していて、キレを重視する他社のビールとは違います。価格も高い。それでも予想以上に売れたんです。「お客さんのニーズはここにある」と自信になりました。

そこで2015年9月にはスタンダードのビールを「ザ・モルツ」として、うま味重視に切り替えました。「マスターズ・ドリーム」の技術を使っていますから、充分なうま味が感じられると思います。

【弘兼】「ザ・モルツ」の宣伝は印象に残っています。販売状況は?

【新浪】お陰様で販売は好調です。我々を支える大きなブランドになると思います。つい先日、開発には「安売りされない商品をつくろう」と指示したところです。スタンダードビールは小売店ではすぐに安売りの対象になってしまう。10円安いことが競争力になる市場です。我々は逆に10円値上げしてもお客さんに欲しいと思われる商品を出していきたいんです。だからもう一段階おいしくするには、何をすればいいのか。それを考えようと話しています。

【弘兼】テイストを変えたくない他社にとってみれば脅威ですね。

【新浪】我々はビール市場ではチャレンジャーなので、こういう戦略が取れる。何十年も売れている商品がある場合は、変えるのは難しい。でも我々はまったく違う味にも挑めます。

振り返ると、ローソンでの戦い方も同じでした。同じことをやっているだけでは、上位のチェーンに必ず負けてしまう。違うところに挑まなければ、勝つことはできません。

【弘兼】世界的にみるとビール市場では寡占化が進んでいますね。15年11月にはビール世界最大手のABインベブが2位のSABミラーを1000億ドル超(約12兆円)での買収を発表しています。

【新浪】こうした世界の競合を相手にしたときスタンダードビールで勝負するのは難しいと思います。一方でプレミアムビールは可能性があります。海外から来たゲストからは、よく「『プレモル』はどこで手に入るんだ」と問い合わせを受けます。原材料や生産拠点が限られているため、現状では国内販売がメインですが、将来的には海外での販売拡大も検討したいと思いますね。

【弘兼】スタンダードビールの消耗戦には付き合わないのですね。

【新浪】そうです。我々はスタンダードビールではなく、プレミアムビールが中核の会社だと思っています。