ほどよい緊張感のある健康的な生活を送りながら、報酬も手にできる――。定年退職した後の「第2の仕事人生」を生き生きと充実させている人がいる。一方で、退職と同時に家にひきこもり、心身の健康も崩しがちになり、妻や子どもに疎んじられてしまう人もいる。両者の分かれ道はどこにあるのか。

役職定年をバネにプロとして独立

宮田博美さん(66歳)

前職を活用しながらも、個人事業主として働いている宮田博美さん(66歳)。

北海道から九州まで年間で60~70回の企業研修をこなす人気講師である。収入は、サラリーマン時代の半分程度、プラス年金だという。

「これでも仕事を減らしたのです。一時期は年間100回を超えていました。お客さんのニーズを聞きながら教材を作ることが必要で、移動時間も長いので、現在のペースがちょうどよいと思います」

美しい姿勢を保ち、よく通る穏やかな声でにこやかに話してくれる宮田さん。教育産業でキャリアを積んできたプロ講師にしか見えないが実は違う。キヤノンおよびキヤノンマーケティングジャパンで60歳の定年まで勤め上げ、やり残した仕事のために8カ月間は再雇用で職場に残った。宮田さんはたたき上げのキヤノンマンなのだ。

転機は55歳のときに訪れた。会社から役職定年を言い渡されたのだ。部長職を失って異動した先の職場では机やパソコンの準備すら整っていなかった。プライドを傷つけられ、乱れた生活を送っていた時期もある。しかし、宮田さんは「まだまだ人生を捨てられない」と思い直し、上司から指示されたプロジェクトのリーダーを引き受けた。

「私が担当したのはサービス領域です。全国のサービス部隊やパートナー企業向けにテキストを作り、中心的な人たちの教育に奔走しました」

入社以来、ほぼ一貫して技術研修やコンサルティングの業務を担当してきた。20代後半からの10年間はテクニカルインストラクターとして、海外のエンジニアを教育して回る業務を経験。その後、マネジメント層へのリーダーシップ研修を手がけ、パートナー企業向けの勉強会や部下に発信する資料作りにも精魂を傾けてきた。会社員時代から「社内研修講師」の素養を育んできたのだ。定年退職後を視野に入れてからは、業務の傍ら、資格学校に自費で通った。退職までにコーチングやキャリアコンサルタントの資格を取った。