なぜ台湾で日本のクスリは人気なのか。「効き目がしっかりしていて、パッケージのデザインが洗練されている。たとえば、ロート製薬の目薬『リセ』は、多くの台湾女性がバッグの中にしのばせている。台湾の市販薬はいかにもクスリっぽくて地味だが、日本の商品はキラキラと輝いて見える。何より台湾で買うより安い」(同)。

鄭氏によると、台湾の風土や習慣も日本の健康・美容商品を愛好する背景になっているという。「亜熱帯気候の台湾では日差しが強く、美白グッズは欠かせない。虫刺されのかゆみ止めもそう。日本では次々にいい商品が発売されるから、目が離せない。台湾人はバイクに乗る人が多く、ふだんあまり歩かないから、日本に行くと、いつもの倍以上歩くので、足が疲れる。そんなとき、ホテルでひんやりした『休足時間』(ライオン)のシートを貼ると気持ちいい」。

昨年、中国のネット上に「神薬」という日本に旅行に行って買うべき医薬品リストが流れた。鄭氏が本で紹介したものも含まれていた。「中国のネットに広まる日本の商品情報の大半は、台湾や香港経由のものだ。たいてい数年遅れで突然広まることが多い。しかし、いったん広まると、波及するスピードは速いので、彼らは都心の量販店に殺到し、まとめ買いする。それが“爆買い”の真相だが、団体客の多い中国人と台湾人では出没するエリアや購入商品が違う。台湾人は日本をよく理解しているので、私の本ではなるべく中国客が行かないスポットを紹介した。吉祥寺や自由が丘などだ。台湾人は、一般の日本人と同じ場所に行って買い物したいと考えているから」。

鄭氏は年に数回日本を訪れ、ドラッグストアを自分の足で視察し、医薬品や化粧品のメーカーを取材している。地道な積み重ねの成果は、今年1月に上梓された最新刊『日本家庭藥』(PESTLE出版)に結実した。100年以上の歴史を持つ日本の家庭常備薬メーカー30数社の創業秘話や定番商品を紹介したムック本だ。「日本で花開いているドラッグストア文化は、老舗企業の歴史があってこそ。その素晴らしさを台湾の読者に伝えたかった」という。

中国“爆買い”客のバイブルを世に送り出した彼は、日本の関連業界にとっても、今後の商品開発や販促を考えるうえで心強い知恵袋になってくれることだろう。

(永井 浩=撮影)
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