アベノミクスの効果もあり、百貨店の販売額は最近好調に推移しています。といっても、小売業全体の販売額約135兆円に対して、百貨店のそれは約6兆2000憶円と、わずか5%弱にすぎません。
つまり百貨店は、量の面ではもう「小売りの王様」ではなく、コンビニやカテゴリーキラー(大型専門店)に主役の座を譲っているのです。にもかかわらず、百貨店の販売額の推移がさも重大事であるかのように報じられるのは、おかしなことと言わなくてはいけません。
ただ、量としては5%の業界ですが、質の面では依然大きな役割を担っていますし、将来にわたっても担い続けるでしょう。そのことを認識したうえで、「これからの百貨店はどうあるべきか」を考えるのが私たち百貨店経営者だと思うのです。
しかし残念なことに、質ではなく目先の量の確保に血道をあげていたのが、最近の百貨店の姿です。前年同月比の数字を気にするあまり、季節のセールを前倒しにする、ムリな値引きに走る、といった手法で「今月だけ」「今期だけ」の売り上げを立ててきました。
すると半面、質の追求がおろそかになり、百貨店の特徴や優位性は失われ、長期的にはさらに販売額や存在感が低下します。業界はいま、こうした負のスパイラルから抜け出せなくなっているのです。
お客様が百貨店に求めるものとは何か。どうしたら私たちの店舗へ足を運んでもらえるか。三越や伊勢丹など個別の百貨店が生き残っていくには、たとえ目先の売り上げを犠牲にしても、それを考え、そこを目指すしかないのです。
では、百貨店にしか提供できないものとは何でしょうか。それこそが質であり、一言でいうと「ワクワク感」です。単にモノを買うだけなら、最近はコンビニでも高級チョコレートの「ゴディバ」を売っていますし、おいしいコーヒーも飲めます。また、ネット通販も便利です。しかし百貨店は「モノを買うこと」以上の価値をお客様に提供できるのです。
そこに一歩足を踏み入れると、ワクワクして時間の経過を忘れてしまうような環境空間。これを用意できるのは、小売業界の中でも百貨店ならではの特徴なのです。