就職は「入口」よりもプロセス
これまでにいくつか、実験的な就職サービスの取り組みを紹介してきました。昨年の「就活アウトロー採用/ナルシスト採用」では約100名のプログラム参加者のうち40名近くが内定し、週休4日・月収15万円での「ゆるい就職」でも、すでに何人も新しいワークスタイルで働きはじめています。今回は、2月から始めた、どうしても「やりたくないこと」にだけ✕(バツ)をつけて、あとは「占い」や「くじ引き」といった運や偶発性に委ねてみるという実験的な新卒向け就職サービス「ベツルート」(http://betsuroute.com/)について書きます。
就職において大切なのは、いかにして入社先を決めるか、ということではなく、入社後にどれだけ前向きに働き続けられるか、ということだと思います。今どき、入社先によって見込める生涯賃金やキャリアパスで、一生ハッピーに働けると言い切れる人は珍しい。人の紹介だろうがなんだろうが、占いだろうがくじ引きだろうが、重要なのは、入社後に始まる、そしてそこから何十年と続く「働く」という人生のプロセスです。
そうなると、働き始めてから会社といい関係をつくれるかどうかのほうが重要なのであって、「入口」の妥当性なんかは正直どうでもいいことです。「入口」で過剰にかたくなって神経をすり減らし、疲れきって、肝心なその入社後がグダグダでは、まったくもって意味がないと思います。
多くの就職サービスでは、希望業種や職種といった様々な条件や「やりたいこと」から志望企業を選びこんでいきますが、就職を経験したことのない新卒学生のほとんどにとっては、そんなものは自分の主観や思い込みじゃないでしょうか? 就職という現実において、「やりたいこと」の多くは幻想だと思います。
そもそも、大手の就職ナビサイトに登録されているのは全企業の1割以下で、労働集約型の大企業が大半です。労働を都市部に集約し、生産性を高め、規模を拡大し、利益を生み出しています。裏を返せば、集約的な生産性との引き換えに個人の労働はシステム化され、替えの効くものになっていきます。だから、そこに「やりたいこと」を求めていくのも変な話です。それなら、安定した給与報酬や役割ポストを求めるべきです。
別に僕は、就職という現実に希望がないと言いたいのではありません。仕事への価値観は変わりつつあります。やってみて、やりながらいろんなことが分かり、身につき、学べて、変化していく。これが、単に「稼ぐ」ということを超えた、「働く」ということの醍醐味だと思うのです。だから、新卒の就職における社会への「入口」は、もっとやわらかくしておいたほうがいいと思うのです。始める前からかたくなって、思い込みで自分を縛り付けてしまうのは、あまりに残念すぎます。