実は、そのときに求められるのが公の精神なのだという。自分のいる会社や場所だけでなく、世界中の人々の暮らしを素晴らしいものにしていくという志。それこそが真のグローバル化に求められているはずで、テラモーターズが目指すビジネスモデルも、そこに立脚点を置いてきた。

徳重氏は「私たちは排ガスの出ないバイクを普及することで、地球温暖化問題の解決に貢献します。加えてアジアでは、現地の人たちに経済的なメリットをもたらす企業でありたいと願っています」と力強く語る。

こうした徳重氏のような考え方を童門氏は「グローカリズム」と呼ぶ。地域、ローカルからスタートし、国についての問題意識に高める。そして、さらに見識を深めてグローバルな視点を持つことが、これからの時代には不可欠だと説く。

童門氏は「松陰のような人物が生まれたのは、幕末が動乱期だったからこそでしょう」という。その多くは、先鋭的な学者で、反体制的な思想を説いたことから非業の死を遂げる。松陰も幕府に危険人物と見なされ、江戸に召喚され死罪を宣告される。

池田氏は「そのときも松陰はまったく動じませんでした。刑場に着くと懐紙を取り出し、はなをかむと、静かに目を閉じたといいます。辞世は『身はたとひ武蔵の野辺に朽ちぬとも 留め置かまし大和魂』。30歳という若さでした」と惜しむようにつぶやく。

見事なまでの勇気と覚悟を持って自らの志を貫き通した吉田松陰。彼の思いは維新の志士たちに、確かに受け継がれた。折しも、いまの日本は再生できるかどうかの瀬戸際にある。改めて松陰の言葉に触れることで、新時代を切り拓く勇気を奮いたたせ、覚悟を磨くことが大切なのではないか。

童門 冬二

1927年生まれ。都庁に勤務し、知事秘書、政策室長などを歴任。退庁後は『小説上杉鷹山』『直江兼続』など歴史小説を多数執筆。

 

池田 貴将

世界No.1コーチのアンソニー・ロビンズに師事し、独自のメソッドを開発。著書の『覚悟の磨き方 超訳吉田松陰』が大ヒット。

 
徳重 徹

1970年生まれ。2010年にテラモーターズを設立し、社長に就任。電動バイクで国内外のリーディングカンパニーとしての地歩を固めつつある。

 
(宇佐見利明、加々美義人、南雲一男、若杉憲司=撮影 時事通信フォト=写真)
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