時代を先読みした戦略とは

昭和シェル石油 香藤繁常会長兼CEO

京浜工業地帯の一角、横浜市鶴見区に雄姿を誇る「扇島パワーステーション」。東京ガスと当社の共同出資により、2010年3月に1号機の運転を開始したLNG(液化天然ガス)を原料とする火力発電所である。すでに2号機まで建設されていて、総出力は80万キロワット。さらに、16年春の稼働をめざして3号機を増設中だ。これが加わると120万キロワット、原発1基分より大きい。

この発電所の建設計画は、当社のエネルギービジネスの選択と集中のなかで出てきたものだ。90年代半ばから地球温暖化が世界的な問題になってきて、それに対応するためのCOP(気候変動条約締約国会議)のニュースがマスコミを賑わしはじめていた。石油事業もそれまでの拡大志向から需要減少に見合った収益志向に向かわざるをえなかったといっていい。当社としてもビジネスポートフォリオの見直しが必要だったのである。

とりわけ重視したのが、固定費構造の改革で、遊休資産となっていた製油所跡地の有効活用などに取り組んだ。そのなかに、東京ガス扇島工場に隣接する当社グループの原油タンク群があった。立地としては臨海部にあり、港湾インフラも整っている。何より、後背地に首都圏という電力関連の大きなマーケットを持つ。と同時に、その頃からアラスカやサハリンなどからのLNGの対日供給が増える見通しもあった。

こうしたプロジェクトに挑戦するには、時代の先読みをしながら、戦略を立てていく必要がある。もちろん、不安も悩みも出てくるが、私はそこを自問自答しながら乗り越えていくときにこそ創造性が発揮されると信じ、常日頃から社員にも伝えてきた。そして、その際のキーワードが“着眼大局・着手小局”だ。大局的なビジョンを持ちつつも、実行は可能なところから進めていく。