土地勘のない仕事を担当するには
会社を筋肉質にするという本社変革推進本部での私の役目は、2000年度末までには一定の成果を上げることができた。01年3月、取締役に就任し、本来の仕事に戻ることになる。私が役員として担当することになったのは製造・供給、製品貿易、流通、海運部門だった。トレーディング(製品貿易)はシンガポールでやっていて、傭船は経験済み。流通も入社後間もない支店勤務で土地勘がある。
したがって、まったくなじみがないのが製造・供給、すなわちサプライ部門。ここは石油需給の見通しに基づき、全社的な原油調達・生産計画を立て、各製油所に指示を出す。石油精製も関わってくることから、スタッフは技術畑の人間が多く、ある種のスペシャリスト軍団の雰囲気があった。供給部門担当役員に理系出身者以外から任命されたのは、恐らく私が最初のケースだろう。
私にしてみれば、彼らの使っている専門用語がほとんど理解できない。一方、彼らにすれば「ずぶの素人がトップに来て、何ができるのか?」という戸惑いがあったろう。とはいえ、社内で角を突き合わせていてもしかたない。どこかに接点がないかと考えて、私が提案したのが「お互いに、これまでのキャリアを尊重して生産性を高めていこう」という業務の進め方である。
まず、相互にプロとしての立場とプライドを尊重し合い、そのうえでサプライロジックとマーケティングロジックの突き合わせをした。私は「あなたたちが出す技術的最適は、はたして市場ニーズに合っているのか」そして「どれだけの利益が確保できるのか」と問いかけた。最初はなかなかコミュニケーションが取れなかったが、諦めずにそうしたディスカッションを繰り返すことで正面突破を図った。