ビジネス人生の原点に立ち戻って勉強
この6年間、昭和シェル石油のグループCEO兼務を含めて会長職を務めてきた。私は、この会長という役職は自分からなろうとしてなれるものではないという気がする。就任時の年齢を考えると、知識も実務経験も他者より優れている必要はあるだろう。また、長いビジネス人生で「あれは彼の仕事だった」と賞賛されるような伝説も持っていたほうがいいかもしれない。しかし、それ以上に重要になってくる要素は心身両面の健康だと思う。
副会長を3年間務めてから、会長になり、最初に感じたのは「孤独なポストだ」ということだ。それだけにプレッシャーも強い。ビジネス上の最終的判断は自分でしなければならない。当然だが結果責任を取る覚悟が求められる。また、業界や財界での活動機会も多くなっていく。そこでは常に会社を代表する公人の立場で振る舞わなければならない。肉体的にはもちろん、精神的にタフでないと役割を果たすことができない。
そこで私は、会長としてのベーシックプリンシプル、すなわち原理原則を再確認しようと思った。そのときに思い出したのが新入社員時代の記憶にほかならない。40数年前、22歳のフレッシュマンとしてシェル石油に入った際、配属先の上司に教えられたのが「君の取ったアクションが、会社のインタレスト(利益)に合っているかどうか、そのことを常に考えろ!」ということだった。よく「初心忘るべからず」というが、私は新米会長として、ビジネス人生の原点に立ち戻って勉強し直そうとしたのである。
では、新入社員の心がけとは一体何だろうか。誰しも「一日も早く会社に馴染もう。諸先輩からよく話を聞いて、自分の肥やしにしていこう」といった素直な姿勢といっていい。ところが、人間というのは厄介なもので、仕事や人間関係に慣れてくると、つい慢心が頭をもたげ、仲間や上司のアドバイスがうるさくなってくる。