情報環境を美しくするために
しかし、被害者のキクチさんにとっては、身に覚えのない誹謗中傷、罵詈雑言に怯える日々だった。書き込みの行われているウエブに削除依頼をしても受け付けられず、警察に行くと、まず「削除依頼を」と門前払いをくらう。それが、僥倖と言ってもいいほどの刑事との出会いで、なんとか摘発までこぎつけたのだという。ネット上の誹謗中傷の実態が明るみに出たこのケースに、私たちは多くを学ぶべきである。
まず書くべきでないこと、書く必要のないことを安易に書かないという態度が必要である。他人の尻馬に乗って、自分の身元は隠し、悪口雑言を書きつられるのは卑劣な行為である。
古人はよこしまな考えが口に出ることを憚ったばかりでなく、そういう考えが心に浮かぶこと自体を恐れた。こういった態度は現代人からすっかり失われたけれど、IT社会を豊かなものにするためには、オンライン上の情報環境を美しくしたい。一人パソコン(スマホ)に向かって、誰にも見られずに下品な言葉を書きつけるけれど、後日、それが自分のものだと明らかになれば、思わず赤面するのではないだろうか。というわけで、サイバーリテラシー・プリンシプル(12)は「面と向かって言えないことを書かない」である。
街頭でのヘイトスピーチは面と向かってあからさまに攻撃するという、これまた異常な行動である。集団の中にまぎれてやるからこそ平気なのだろうが、ここにはネットの悪口雑言モードが溶け出してきているようにも思われる。