「五輪エンブレム」が使用中止に追い込まれた

【事件】2020年開催予定の東京オリンピック・パラリンピックのエンブレムに関して、大会組織委員会(会長・森喜朗元首相)は2015年9月1日、このエンブレムの使用を中止すると発表した。

同エンブレムは7月24日に公募作品104点の中から選ばれ、同組織委から発表されたもので、制作はデザイナー、佐野研二郎氏。しかし発表直後から、ベルギーの劇場(リエージュ)ロゴを制作したデザイナーが「自分の作品と似ている」と国際オリンピック委員会相手に使用中止を求める訴訟を起こしたり、ネットで他のデザインとの類似が指摘されたり、佐野氏がエンブレムの使用イメージとして提案した画像が他人のサイトから無断で借りたものだったり、さまざまな“疑惑”が指摘されていた。

組織委の武藤敏郎事務総長は9月1日の記者会見で「盗作とは考えていないが、国民的行事としてのオリンピック・ロゴとして一般の理解を得られなくなった。佐野氏自身の申し出を受けて決断した」と使用中止の理由を述べた。当の佐野氏も使用イメージに使った画像がネットからの無断転用だったことを認めて謝罪したが、エンブレムそのものの模倣や盗作は否定している。

大会組織委員会はエンブレムを新たに公募する作業を始めた。なお同組織委はオリンピックのメイン会場となる新国立競技場をめぐっても、当初の建設計画を白紙撤回するなど迷走を続けている。

【画像検索技術の発達】今回の騒ぎの特徴は、ネットを中心に疑惑が浮上し、組織委や制作者が反論したり、釈明のために選考経過を明かしたりすると、さらに疑惑が拡大するという経過をたどったことである。これまでも文章の盗作(コピー・アンド・ペースト)や画像の捏造などが話題になることは多かったが、今回は、次々に佐野氏の作品の類似画像がネットにアップされ、大きな騒ぎになった。この背景には、強力な画像検索アプリの登場で、ネット上の類似画像を簡単に見つけられるようになった事情がある(googleが提供している画像検索機能を使って、写真や図版を検索画面にアップするだけで、オンライン上の同一画像や類似画像が簡単に見つけられる)。

最初、五輪エンブレムがベルギーの劇場のロゴと似ていると指摘されたとき、組織委は記者会見を開き「最終作品は原案から2度の修正をしたものである」と、ここではじめて原案を明らかにした。するとその原案がドイツのタイポグラファーの展覧会ポスターに似ていると指摘され、プレゼンテーションに使うための使用イメージの画像がネットからの無断転用であることも、やはりネットで指摘された。

またサントリーの景品に使われたトートバックのデザインでも他からの流用が指摘され、佐野氏自身がその一部に不手際があったことを認めた。そのほかにも佐野氏の作品が他の画像に似ているといった情報が次々にネットに現れた。

佐野氏がプレゼンテーション用に使ったイメージ画像が他の写真の流用で、原作者の了解をとらずに使ったという著作権法上の落ち度が、佐野氏の仕事ぶり全体への疑義を助長、佐野氏の作品を選んだ組織委(エンブレム審査委員会)の選出過程への批判にもつながった。

エンブレムはこうして発表1カ月ですっかり手垢にまみれてしまったわけである。