大動脈瘤の治療は心臓血管外科医

順天堂大学医学部心臓血管外科教授 天野 篤

私の仕事は心臓血管外科医です。平日は毎日2~4例の心臓外科手術を執刀しています。2013年の私の手術症例数は、他院での執刀も合わせて510例でした。この連載では、心臓外科医として日々感じていること、気になる医療ニュースなどに関して私なりの思いを綴っていけたらと考えています。

私が最近特に気になっているのは、有名人の突然死が多いことです。8月には、俳優・画家の米倉斉加年(まさかね)さん(享年80歳)が腹部大動脈瘤破裂、元力士でタレントの龍虎さん(享年73歳)が心筋梗塞で急逝されました。どちらも、その直前までお元気で活躍されていました。

わが国では年間10万人が突然死しているというデータもあり、どんなに用心していても突然死が避けられないケースもあります。しかし、動脈硬化が原因の心臓や大動脈の治療を専門にする医師の立場からみると、少なくとも米倉さんの突然死は避けられたのではないかと思われてなりません。

米倉さんが命を奪われた腹部大動脈瘤破裂は、高齢社会の進展と共に増えている大動脈の病気の一つです。俳優の藤田まことさんや作家の司馬遼太郎さんも、この病気で亡くなられています。あまり知られていないかもしれませんが、大動脈瘤の治療もわれわれ心臓血管外科医の守備範囲です。

大動脈は直径2~3センチと体の中で最も太い血管で、心臓から全身に血液を送り出す大事な役割を果たしています。大動脈瘤は、この大動脈の一部分が膨らんでこぶができた状態です。大動脈瘤ができる主な原因は動脈硬化です。高血圧、リウマチ、梅毒、その他の感染症、外傷によっても発生することがあります。血管の一部が膨らむ動脈瘤は脳にできれば脳動脈瘤で、それが破裂するとクモ膜下出血となり、やはり多くの人の命を奪う怖い病気です。

私たちの体のほぼ真ん中を走っている大動脈に発生する瘤は、心臓に近い部分にできると胸部大動脈瘤、お腹のあたりだと腹部大動脈瘤と呼ばれます。大動脈瘤の4分の3が腹部に発生し、男性は女性より約3倍大動脈瘤ができやすい傾向があります。

腹部大動脈瘤破裂は、少しずつ大きくなった大動脈瘤が破裂してしまった状態です。大動脈瘤はただ膨らんでいるだけのときには痛みや不快感などの症状がない場合がほとんどですが、ひとたび破裂すると大量に出血してショック状態を起こし、80~90%の人が死亡するといわれます。大動脈は高い圧力で全身に血液を送っているので、血管が裂けると大出血につながるのです。運よく、病院に運ばれて破裂した血管を人工血管に取り替える手術ができたとしても、致死率は30%程度です。残念ながら、大動脈瘤破裂については、どんな名医にかかっても助からないものは助かりません。