手術で患者が元気になる喜び
あまり知られていないかもしれませんが、心臓病、がん、脳疾患などの手術をする外科医不足が深刻化しています。以前、産科医、小児科医の不足が騒がれ、大病院でも産科や小児科を閉鎖するところが相次いだことがありました。診療報酬を上げるなどの対策が功を奏したのか、産科医、小児科医の志望者は徐々に増えてきているのですが、外科医の志望者は減り続けています。若手が増えない一方で外科医は高齢化し、われわれ外科医の間では、近い将来、がんなどの手術を長期間待たされ手遅れになる患者さんが増えるのではないかと危惧されているのです。
こうした現状を何とかしようと、カルビーの会長兼CEOの松本晃さんが、2009年に「NPO法人日本から外科医がいなくなることを憂い行動する会」(若手外科系医師を増やす会)を設立しました。私もこの会の理事を務めており、昨年11月末に同会のセミナーで講演をしたのですが、私自身は、目標となる外科医がいて労働内容に見合わず報酬が低い点を改善すれば、外科医志望者はもっと増えるのではないかと考えています。
外科医の仕事は、「きつい」「帰れない」「(労働時間が長い割に)給料が安い」の3Kと言われることがあります。それでも、自分が手掛けた手術によって患者さんを助けられ、命をよみがえらせられる喜びは何モノにも代え難いものです。多くの現役外科医は、そうしたやりがいを感じて働いています。特に心臓の手術では、高齢の患者さんが手術前よりも元気になって、病気のために控えていたゴルフができるようになるなど目に見えて病状が改善します。
2012年2月に、天皇陛下の心臓バイパス手術を執刀した際も、「陛下が手術を受けたことを忘れるくらい元気になられて初めて手術が成功と言える」と考えていましたし、それを公言してきました。溌剌とご公務に励まれている陛下の姿を拝見したり、これまで手術を執刀してきた多くの患者さんに接したりする度に、心臓外科医という道を選んでよかったと実感します。