外科医の待遇改善に取り組む理由

今年のお正月にも、以前手術をした患者さんたちからたくさんの年賀状をいただきました。その中には、20年以上のおつきあいになっている方もいます。亡くなった方も含めて、多くの患者さんにいろいろなことを教えていただきました。「二度と同じ失敗をするな」と命を持って教えてくださった患者さんもいます。内科医や精神科医など他の診療科の医師も同じかもしれませんが、そういったたくさんの患者さんとの出会いも外科医としてのかけがいのない財産です。

確かに、これまで大学病院や国公立病院などでは、時間外労働の多い外科医も、休日や夜間に急に呼び出されることのない診療科の医師も給料や手当が同じといった状態が続いてきました。そうした状態を改善し、努力が報われる形にする必要はあります。東京大学医学部附属病院は、昨年の夏、時間外か休日に緊急の手術や処置を実施した医師に「緊急手術等手当」を支給する改革に乗り出しました。私が副院長を務める順天堂大学医学部附属順天堂医院でも、時間外手当を手厚くし、関連病院に出向したときに資格・能力に応じて給料を上げてもらうなど外科医の待遇改善に取り組んでいます。

私は2002年に順天堂大学医学部心臓血管外科の教授になって以来、10年以上、術後の患者さんの容態変化や緊急手術対応の陣頭指揮のために、平日は、毎日教授室で寝泊まりしてきました。また、手術にかける体力、精神力を温存するためにも、通勤時間は私にとっては無駄にしか思えないという理由もあります。その気持ちを理解してくれている家族には感謝しています。だからといって、部下である医局員にそれを強要することはありません。若いスタッフたちには休息やリフレッシュも必要ですし、個人や家族との時間も大切です。できる限りプライベートを重視させるように配慮しています。心臓血管外科の医局の中で最も収入が多いのは間違いなく私であり、収入が多い者が一番働き、社会貢献につなげるのが当たり前だと考えていることも大きな理由の一つです。

ただ、心臓手術では外科医が途中でもうできないと思った途端に患者の生命が失われてしまいます。心臓外科医になったからには、患者さんに寄り添って不安を和らげる情熱を持ち続け、少しでも多くの患者さんを助けられるように、頼りとする腕を磨く努力は忘れて欲しくないと考え指導しています。