叱ったあとに気まずさが残る人へ

私はJALにくる以前の京セラ時代から、経営者はパイロットと同じで、企業を経営する操縦士だと言ってきました。飛行機を操縦するには、自分の目の前に並ぶ計器類が示す数字を細かくチェックすることで、正常に飛んでいるのかどうかの判断をしなければならない。その数字がちょっとでも狂っているだけで、操縦に大きな影響を与えてしまう。まさに経営も同じで、数字に対する注意力が最も重要です。

だから経営に関する計数に対して判断が甘くなり、雑駁な取り組みをしていれば、非常に厳しく叱る。しかし、そうした過ちのあと、今後どう対応するのか、しっかり検討できればいいのです。

褒めるよりも、叱るほうが難しいとよくいわれますが、私はその点についてはあまり気にかけていません。一方で、厳しく叱って、その後、「あんなに叱って」と、自分の気持ちが息苦しくなり叱らないようにしている人もいるかもしれません。私はそのような後々気まずさが残るような叱り方をしないようには心がけていますが、叱ることをやめるのは部下のためにもならないと思います。

私なら、なぜこんなに厳しく叱ったか、諄々とその理由を言って聞かせ、そして最後に「わかったな、あとは頑張れよ」と必ず言葉をかけます。そのときに私は、表情を崩しニコッとするらしい。意図してやっているわけではないのですが、多くの人が、その微笑みで、叱られたことの恨みつらみのようなものが全部消えると言ってくれるので、私の微笑みが救いになっているのかもしれません。

それはともかく、上に立つ者は部下たちの幸せを常に心に留めて叱らなければいけない。部下の成長を願い、愛情を持って指導する。「愛情を持って」と表現しましたが、これは単に子供を溺愛するような愛情をさしているのではありません。やさしさと厳しさ、この両面が必要なのです。

リーダーは部下が立派に育つことを願って、これまでの経験から培ってきた自分の知識や経験を惜しげもなく教えるようにすればいい。そうしても、部下がいい加減であったり、間違ったことをするようであれば、それを指摘し、厳しく叱ることができます。部下を育てよう、立派な人間にしたいという愛情が根底にあれば、厳しく叱られようとも、部下はそれを素直に受け入れてくれるはずです。

部下に迎合してやさしさをふりまくだけでは、部下は決して成長しません。厳しく叱る勇気がなく、部下の機嫌ばかりとっていては、その部下が成長しないばかりか、会社全体を不幸にしてしまう。叱るべきときは、心を鬼にして叱る、それがリーダーに求められる愛情です。

(吉田茂人=インタビュー・構成 若杉憲司、小倉和徳=撮影)
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