漫画家 いしかわじゅんさん
1951年2月15日生まれ。愛知県出身。明治大学商学部を卒業後、トヨタ自動車に入社するもほどなく退社。漫画家としてデビューする。「週刊文春」で隔週連載中の「漫画の時間」や「BSマンガ夜話」(NHK BS2)はじめ、漫画評論家としても活躍。ほかに小説、エッセイ、俳優業など手がけ、仕事のジャンルは極めて幅広い。「コミックビーム」(エンターブレイン)で連載されていた「吉祥寺キャットウォーク」は1~3巻までコミックが発売中。このほど最終回を迎え、最終巻の発売が待たれる。
数年前、突然なんとなくご飯が食べたくなくなり、そのときに気づいたんです。「これが食欲がないってことか!」。まあ2~3時間のことでしたが、初めての体験だったから感動しましたね。普段は、熱が39度あっても腹が減ります。頑丈な体に産んでくれた親に感謝です。
食べるぶん、運動もします。テニスに加えて夏はダイビング、冬はスキー。そもそも、習いごとって好きなんです。人に教えてもらうのが一番効率がいいでしょ。スキーはシーズン始めにコーチと昨年のおさらいをしてから、その年の課題を検討する。文化系では、森大衛さんに書道を習って5年になります。書は即興芸術でありながら、デザイン要素もあるのが面白いですね。
僕にとって、運動も食事もあくまで楽しむためのもので、仕事の気分転換にという感じとは違います。実は仕事で、ネタにつまったことがない。最初の頃なんて、ネーム(コマ割りのラフ)もなしに作業していました。1コマ目を描くうちに、次のネタが頭に浮かぶんです。でもそれが10年ほど続いたとき、仕事場に行くのすら面倒臭くなった。
今思えば、たぶん鬱。心がすり減っていたんでしょう。とはいえ、海外でなにもしないで過ごしていたら、そのうち自然に復活しましたね。当時はメールも携帯電話もなく気楽だった。僕はとりあえず、暑さ、寒さ、痛みに強い。鈍いんですよ(笑)。
先日連載が終わったばかりの「吉祥寺キャットウォーク」は、僕が住んでいる吉祥寺が舞台です。大学3年からですから、もう40年以上になります。昔は地味な住宅街で、駅前の横丁も闇市の頃のまま。町が変わる過程が面白かったですね。正直、今のチェーン店ばかりの吉祥寺は好きではないので、地元での外食も昔馴染みの店に限られます。
吉祥寺に限らず、僕自身は「いつもの店」に行くタイプなんですが、女房が料理系のライターで、新しい情報が次々と入ってくるのでそそられる。「ANTICA OSTERIA CARNEYA」は、シェフが焼き肉店の息子で肉一筋、熟成の技術がすごいと連れて行かれました。「Joe's Kitchen」は、自分でコースの内容を選べるうえ、この年になっても初めて出合う味があるのが嬉しいですね。
子ども時代は、外食をしない家に育ったんです。おふくろの料理は手早くて、とりたててなにというわけではないんだけど、うまかった。今もあり合わせのもので作るような、家庭料理が好きですね。
親父の先祖は400年前から続いた庄屋だったんですが、祖父と曾祖父が放蕩の限りを尽くし、全財産を使い果たした。そのせいか親父は酒を飲まず。僕も父親と同じ。バーでも、烏龍茶を飲んでますよ。