芸人 劇団ひとりさん

1977年、千葉県生まれ。国際線パイロットだった父の仕事の関係で、幼少期を米国アラスカ州アンカレッジで過ごす。数々のTVバラエティー番組で活躍する一方、2006年、『陰日向に咲く』で小説家デビュー。08年に映画化もされ話題となった。映画「8日目の蝉」「麒麟の翼」などで役者としても活躍。プライベートでは09年にタレントの大沢あかねと結婚し、翌年長女が誕生した。映画初監督作「青天の霹靂」が5月24日より全国東宝系にて上映中。


 

ビートたけしさんの名曲『浅草キッド』でおなじみの「捕鯨船」は、芸人にとって聖地のような場所です。初めて来たのは3~4年前。会計しようとしたら、「お代はたけちゃんからもらってるよ」って、映画に出てくるようなセリフをさらっと言われました。5月24日に公開された僕の初監督作「青天の霹靂」で、ここをモデルにした店が出てくるんですが、料理は大将がすべて無料で提供してくれました。一つ一つが粋ですよね。浅草という街にはそんな魅力がいっぱい詰まってます。

初めての監督業は、とにかく楽しかったです。苦労したのは脚本。形にするまで3年以上かかりました。クランクインしてからも、撮影当日に現場で書き直したことが何度もありました。でも原作は僕の小説なので、自分の判断ですぐ書き換えられるのは、原作者ならではの強みでしたね。キャストとしても、大泉洋さん演じる主人公の父を演じました。監督業だけでも手いっぱいでしたが、どうしてもこの役は自分でやりたかったんです。

主人公は現代から昭和40年代にタイムスリップして、若き日の両親と出会うんですが、現代では売れないマジシャンなんです。大泉さんは数々のマジックをものすごく頑張ってくれました。特に冒頭の、長回しのカードマジックシーンは80テイクくらい撮ったかな。指が腱鞘炎になるほどやってくれたんですよ。

主人公がタイムスリップする話は過去に何度も描かれてきたけど、この映画ではあえて“王道”でいこうと思いました。そして「SFだけど人情話」という印象にしたかった。これまでにないものを創ろうとして、無理に何か違ったことをするのは本末転倒のような気がして。じゃあ面白いものを創るにはどうするか? それを突き詰めた結果、人とは“ちょっと違う”くらいがいいんじゃないかと思ったんです。

親子の絆を描いた作品にしたのは、僕が親になったからなのかな。独身時代は親子モノを見てもまったく感動しなかったのに、環境の変化で僕自身も変わったんだと思います。

最近、自分の身に起こった“青天の霹靂”といえば、娘が突然「パパとママどっちが好きか聞いて」って言うので尋ねてみたら、「ママ!」と即答されたこと。目的はわからなかったけど、たぶん僕よりママのほうが好きだということを主張したかったんでしょうね(笑)。

僕も家庭をもち、一児の父となりましたが、やっぱり家庭が明るいことが一番大事。家庭こそ最もラクな場所であってほしいし、その場所を維持するためにはラクをしちゃいけないと思うんです。当たり前のことだけど、家庭をうまくいかせるには自分が頑張らなきゃダメですね。