久住昌之
1958年、東京都三鷹市生まれ。法政大学卒業後、美学校に入学し、赤瀬川原平に師事する。81年に、美学校の同期生、泉晴紀とコンビを組み、「泉昌之」として「ガロ」誌で漫画家デビュー。漫画原作や装丁家、エッセイストとしても活躍。女性漫画原作に挑戦した『花のズボラ飯』で、「このマンガがすごい!2012」オンナ編1位を獲得。官能的な食事シーンが話題となった。谷口ジローとコンビを組んだ『孤独のグルメ』は、ヨーロッパ数カ国やブラジルで翻訳出版されている。今年1~3月にはTVドラマ化されて好評を博した。ドラマでは、自身のバンドが音楽を担当。DVDBOXとサントラCDが5月に発売されたばかり。
僕の生まれ育った東京・三鷹の一角に、昔から何気なく立っている「たかね」。私の親がよくたい焼きを買ってました。当時は普通のたい焼き屋さんだったけど、今の3代目になってから、名前は同じでも完全に別の店のように中身が変わったんです。たい焼きも甘味も驚くほどおいしくなってます。
かき氷は2年前に初めて食べたんだけど、一口食べて本当に驚きました。食べたことのない味、食感。きなこをまぶす食べ方にもビックリ。ウマイ。そもそも、昔ですら機械で焼くのが普通だったたい焼きを、一個一個手で焼くなんて時代に逆行してる(笑)。すべてのメニューが吟味されて洗練されている。
僕は一昨年、東京・大阪間を“散歩”したんです。初日は横浜まで歩いて電車で戻り、次に横浜まで電車で行って、そこから藤沢まで歩いて……という具合。散歩だから地図は見ません。道に迷って駅が見当たらず、野宿を覚悟したこともあります。
道々食事をする際は、目に留まった店がいい店か悪い店かを一生懸命考えて、そして勝負に出ます。その結果が成功でも失敗でも面白い。なぜなら自分で選んで、自分でお金を払ってるから。喜びもドッキリも身を挺さないと得られません。
今は皆パソコンやスマホでお店を検索して、出ていた写真と同じものを食べる。それがダメとは言わないよ。失敗はしないから70点は取れる。でも、それは単に後追いしてるだけだから、まず漫画にはならない。漫画も飲み屋でする話も、失敗を面白がるもの。だって、死なない程度の失敗談が一番面白いでしょ? でもわざと失敗してはこれまたツマラナイ。因果な商売です(笑)。
大阪には2年かかって到達したけど、大阪・関西圏のお店は味と値段で、たいてい70点は取ってる。でも、それ以上の味が少ない気がします。お客さんを驚かせる120点の店は、たとえば神戸からタクシーで鳥取まで猪を食べにいくような、そんな金持ちの世界にしかない。
一方で、庶民の店の中にまったくの0点もあれば、110点もある。これが東京だと思う。郊外の甘味屋でも、店主が足と舌と頭を使って全国から素材を集め、汗水たらして作った驚くべきおいしいものが食べられる。ちょっと高いけど、それでも通えるお客さんが大勢いる――それが東京だと思うんです。「たかね」は、まさに“ザ・東京”です。