NHKの大河ドラマ「軍師官兵衛」の放送開始で、豊臣秀吉の側近として活躍した黒田官兵衛とその時代への関心が高まっている。
日本人は、なぜ、戦国時代の物語が好きなのだろう。豊臣秀吉や、織田信長、徳川家康、武田信玄、上杉謙信らが活躍する、応仁の乱から始まる戦国の物語に、私たちは繰り返し立ち返っている。
人間の脳の働きという視点から見て、戦国時代の物語が興味深いのは、現代の日本人の脳の使い方と異なる可能性が示されている点にある。
現代の日本人は、あまりリスクをとらないとしばしば言われる。どうとらえたらいいかわからない、宙ぶらりんな状態が苦手である。「偏差値入試」に象徴されるように、数値に表される評価基準にこだわるし、「新卒一括採用」に見られるように、横並び意識が強い。
しかし、このような日本人の脳の働きは、決して、固定化されたものではない。ましてや、日本人の遺伝子で決まっているものでもない。そのことを、戦国時代の記憶が、教えてくれる。
生きている中で、何が起こるかわからないということを、「偶有性」と呼ぶ。現代の日本人は、一見、偶有性が苦手である。ところが、戦国時代を見ると、私たちの祖先は、偶有性の中にこそ生きていたことがわかる。
例えば、黒田官兵衛が重要な役割を果たしたと言われる豊臣秀吉の「中国大返し」。明智光秀によって、織田信長が討たれるという「本能寺の変」を察知した豊臣秀吉は、対峙していた毛利氏側との講和をまとめ、現在の岡山県岡山市にあった備中高松城から、現在の京都府大山崎町まで、約200キロの行程を当時としては驚異的な速さの約10日間で引き返した。
そして、豊臣秀吉が率いる軍は、天王山の戦い(山崎の戦い)において、明智光秀の軍を破り、後の天下統一へのきっかけをつかむ。
織田信長が急死するという、天下の情勢を変える事態に対して、豊臣秀吉が迅速に行動できたのも、当時としてはそれが「あたりまえ」だったからだろう。