「インタビューは私にとってラブストーリーだ。それは戦いであり、性行為である」。イタリアの女性ジャーナリストであるオリアナ・ファラーチ(1929~2006年)の言葉が、本の扉に書かれ、松原耕二氏の2作目の小説『ハードトーク』は始まる。
「まだインタビュアーという仕事が確立していない、しかも男社会の中、その時代に女性として激しいインタビューをおこなった人、同時に全人格を懸けて、問い、言葉を交わしていく姿勢に、強く共感し、彼女自身がインタビューで答えた言葉を、執筆終了後、巻頭に入れたいと思いました」
職場では追いやられ、家族も失った主人公・岡村俊平の過去、現在を丁寧に描写、インタビューの魅力と魔力を繊細に描いている。自らの“再生”を懸け、時の総理大臣藤堂一朗にインタビューを挑むクライマックスは緊張と刺激の連続だ。ゲラ(刊行前の校正刷り)を読み「面白かったよ! 素晴しい小説だ!」と松原氏に連絡をした作家・白石一文氏。「困りますよ! 面白くて深夜2時まで読み続けましたよ、翌日早いのに!」と書評を書いた乙武洋匡氏。「今年ナンバーワンの小説」「ページをめくる手が止められない」とポップを書き、フェアを実施、この小説を推薦する書店員も多い。この小説には今、追い風が吹いている。
松原氏に小説を書くことを勧めた脚本家の故・野沢尚氏が読まれたらどうだったでしょう? という質問に「野沢さんとはテレビの魅力、面白さと一瞬で消えてしまう儚さ、もの悲しさ、両方を共有できていた気がしていたので、テレビをやり、活字もやる人間がひとり増えたことを喜んでくれたと思いますね」と松原氏は答えた。
“無意識の扉をインタビュアーがノックする。たいていは反応がない。それでも根気よくノックし続ければ、開かずの扉が、開く瞬間に立ち会えることだってある。インタビュアーとして、それ以上の官能があるだろうか”(本文より)
「書き終えて思ったことですが、もしかしたらこの本は自分が自分にインタビューしていたのではないか? と。自分が生きてきて、考え続けてきた、世の中に伝えるとは何だろう? 報道とは? インタビューとは? ということに対しての答えと問いかけがこの小説にあるのかもしれないという気がします」
「報道番組のキャスター」「記者」等、冠はもはや必要ではない。作家・松原耕二氏はひたむきに、ひたすらに小説を書き、発表していくのだ。