企業の延命ではなく「人の成長」へ投資を

③ 会社を守る政策から、働く人の将来を守る政策へ

日本の雇用政策は長く、雇用関係を維持することに重点を置いてきた。雇用調整助成金は、危機の際に失業の急増を防ぐ効果を持つ。しかし、競争力を失った事業に人をとどめることが常態化すれば、成長産業で必要な人材が不足し、働く本人も新しい能力を身に付ける機会を失いやすい。

守るべきは、同じ会社に勤め続けるという形式ではなく、働く人が生活の安定を失わずに、より生産性の高い仕事へ移れる可能性である。失職時の所得保障を厚くし、実際の求人に結び付く職業訓練と職業紹介を充実させる。年功的な処遇から、職務と能力に応じて報酬を得やすい仕組みへの転換も必要だ。

政府の財政は既存企業や仕事の延命ではなく、働く人が成長分野に移り、稼ぐ力を高めるために使いたい。

政治家が減税や給付を好むのには理由がある。効果がすぐに見え、国民に説明しやすいからだ。一方、制度改革は既得権益との調整が必要で、成果が数字に表れるまで時間がかかる。だから、改革を唱えても最後は財政措置で折り合いをつけがちになる。

高市政権は17の戦略分野で、2040年度までに官民合わせて370兆円超の投資を見込む計画を掲げ、人材育成や規制改革も進めるとしている。ただし、この370兆円は政府の支出額ではなく、将来の民間投資などを含む見込み額である。計画が示されたからといって、それだけで日本の生産性や国民の所得が高まるわけではない。

官民370兆円の投資計画は立派だ。しかし、政府が重点分野を選んで資金を投入することと、民間企業が自ら投資先を見つけ、競争によって成長することは違う。日本に必要なのは、前者の規模を競うことではなく、後者を妨げてきた制度を変えることではないか。政府が掲げる規制改革や人材育成策も、計画に盛り込んだだけでは意味がない。

高市政権の真価を問う「2年」

高市首相は今回の飲食料品減税を2年後に確実に終えると明言した。ならば、その2年間に問われるのは、規制改革や労働市場改革をどこまで実行し、それが民間の新規投資や新事業への挑戦につながったかである。新しい産業が成長軌道に乗り、実質所得を押し上げるには時間がかかる。しかし、変化が始まったかどうかは検証できる。

辛坊治郎、辛坊正記『なぜあなたは貧乏人のままなのか』(幻冬舎)
辛坊治郎、辛坊正記『なぜあなたは貧乏人のままなのか』(幻冬舎)

減税にも給付にも役割はある。今回の就業者支援金が、働く意欲を高める制度へ育つことを期待したい。しかし、家計の負担を軽くすることと、日本の経済力を高めることを同じものとして扱ってはならない。

人口が減る日本で生活水準を上げるには、人と資本がより価値を生む仕事へ移れる環境をつくること。新技術が事業となり、国内で投資と雇用を増やせるようにすることが肝要だ。そして本当に困窮する人には必要な支援を直接届けることも必要だ。

政治の成績は「国民に何兆円を還元したか」ではなく、「国民が自ら生み出す所得を、どれだけ持続的に増やせる経済を築いたか」で決まるのだ。日本に必要なのは、配る金額を競う政治ではなく、国民の稼ぐ力を高める改革を競う政治ではないか。

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