「強く思えば成功する」
「疑う者を外せ、感激を持ってやれ」。こう聞くと、精神論に見える。だが、稲盛の言う「思い」は根性論とは違う。稲盛には「強く思えば成功する」という有名な言葉があるが、本人の説明はこうだ。
本気で成功したいと思えば、どうすれば成功できるかを論理的に考え尽くし、懸命に努力するはずだ。だから結果として成功する――。
努力せずに願うだけの経営者には、はっきり否定的だった。「疑うな」は「考えるな」ではない。
稲盛が一人だけ変わっていたわけでもない。同じ記事には、松下電器の城阪俊吉副社長が超能力を「90%」信じると語り、ワコールの塚本幸一社長が「もともと信じている」と明かした、とある。1983年の日本では、第一線の経営者や技術者が超能力を公然と語っていた。
稲盛はもともと、鹿児島大学工学部で応用化学を学んだ技術者である。実験で世界を見る訓練を受けた人が、なぜ科学の外側を頭から否定しなかったのか。
手がかりは12歳の体験にある。肺浸潤で死の淵をさまよったとき、宗教書『生命の實相』全40巻を読み通し、「心に描いたものがそのまま現象となって現れる」という一節に衝撃を受けた。これが、心を経営のよりどころにする原体験になったとされる。
科学で証明できることはほんの一部
のちにノーベル物理学賞の湯川秀樹らとの交流も踏まえて、その感覚は「科学的に証明できていることはほんの一部であり、人智が及ばない不思議なことが世の中にはまだたくさん存在する」という心構えを形成していく。信じ込むのでも、はねつけるのでもない。わからないものを、わからないままにしておく。
そして1997年、その「わからないもの」が、稲盛自身の体をめぐって現れる。
この年の6月、得度を控えていた稲盛に胃がんが見つかった。入院も手術も内密に進められた。ところが、ここで不思議なことが起きた。稲盛と長年懇意だった本山博――筑波大学で博士号を取った科学者にして、玉光神社の宮司、宗教心理学研究所の設立者でもある人物――の夫人から、秘書の大田に電話が入った。米国出張中の夫に代わっての連絡だった。
「稲盛さんは胃がんですよね。胃がんの場所は後で主人がファックスを送りますが、必ず治るので安心してください」
誰にも知らせていないはずの病名を、言い当てられている。ほどなく届いたファックスには患部の位置が描かれていて、大田が病院で確かめると、レントゲン写真と全く同じ場所だった。大田は言葉を失ったという。
同じ年の秋、回復した稲盛が南米出張中に腸閉塞を起こしたときも、本山から連絡があった。「稲盛さんは腸閉塞を起こしていますね。でも、私が念を送っておいたので大丈夫です」。症状は、実際に回復した。


