外国のスパイはどこに潜んでいるのか。元警視庁公安部外事課の勝丸円覚さんは「ロシアと中国ではやり方がまるで違う。中国の場合は、協力者がどこにいてもおかしくない」という――。(第1回)

※本稿は、勝丸円覚『産業スパイ対策の教科書』(日本能率協会マネジメントセンター)の一部を再編集したものです。

交差点の横断歩道を歩く人
写真=iStock.com/chachamal
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ロシアには「ホンモノのスパイ」と「協力者」がいる

Q スパイはどこに潜んでいるのか?


A 大使館から料理店まで、あらゆる場所にいる!

外国のスパイはどこに潜んでいるのか。これはスパイの定義による。「スパイ=外国政府や企業のために非合法に情報を入手しようとする人」と定義すると、その範囲はかなり広い。

たとえばロシアの場合、大使館にいる「ホンモノ」のスパイだけでなく、通信社の関係者や航空会社の関係者なども含まれる。たとえば、ウクライナ支援を求めるデモをタス通信(ロシアの国営通信社)の記者が熱心に撮影していると思ったら、その後デモ関係者が相次いで嫌がらせを受けるなどの被害にあっていた。おそらく彼らは情報を当局などに流しているのだろう。

ただ、ロシアの「協力者」は多くても、情報工作を主導する「ホンモノのスパイ」はごくわずかだ。あの国はプロを好む。なので「ホンモノ」は大使館の外交官や通商代表部の職員に限られる。彼らの実態は参謀本部情報総局(GRU)や対外情報庁(SVR)に所属する「プロパー」だ。人数は数人、多くても数十人だろう。ロシアのスパイは、接触のしかたが特徴的だ。重要なターゲットは協力者に任せず、「ホンモノ」が直接接触しようとする。だから摘発に成功しても、外交特権を盾にされて逮捕できないケースが多い。

中国は“表に出てこない”

もっとえげつないのは中国だ。中国の「スパイマスター」は、ロシアと違って、表に出てくることはない。大使館などに潜み、「協力者」のネットワークを統括している。

中国は、国家情報法などによって情報工作への協力を国内外の国民に義務づけているので、バーだろうと料理店だろうと、どこに「協力者」がいてもおかしくない。六本木のある有名な中華料理店の話など、知っている人もいるだろう。さる有力政治家も通っていると言われる有名店だ。なかには、政府やその関係者から資金を与えられ、日本で開業しつつ、裏で情報工作に関わっている者もいる。

中国人留学生のなかには、日本での「就職活動」で、どこそこの企業に志願しろ、と当局に指示されることもあるらしい。当局の欲しい情報を持っている企業に忍び込ませるのだ。将来の技術的リーダーの養成プロセスと位置づけている場合もある。

こうなると、スパイの「予防」は非常に難しい。留学受け入れ時点では何も問題がなくても、就職の時点でネットワークに取り込まれれば予見のしようがない。仮にこの潜入経路を防いでも、また別の手を考えるだろうから、いたちごっこである。

<「見るからにスパイらしいスパイ」など存在しない。肩書や外見で判断せず、不審な言動に目を配ろう。>