交際関係そのものは違法ではないので、情報漏洩の有無が問題なのだが、実を言うとなかなか立証が難しい手段のひとつである。

<親密な関係が工作の入り口になることがある。出会いの場での言動には慎重でありたい。>

「マッチングアプリ」はスパイに好都合

Q スパイもマッチングアプリを利用することがある?


A スパイにとっても便利なアプリ。弱みを握り、脅しに使うことも……。

ハニートラップと似たような問題で、マッチングアプリの悪用が近年は懸念材料だ。マッチングアプリ市場は急成長が続いており、こども家庭庁の2024年度の調査では、既婚者の25%以上がマッチングアプリで配偶者と出会っている。これは、職場や友人の紹介を上回る結果である。

出会い系アプリ
写真=iStock.com/AndreyPopov
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急成長は悪用の懸念と表裏一体だ。既婚者の不倫相手探しなどはよく指摘されるが、実はスパイ活動への悪用も十分ありうる。

現に、2024年にイギリスでは、「ウェストミンスター・ハニートラップ」というスキャンダルが起きている。この事件では、当時与党だった保守党の議員を含む国会議員のところに、「チャーリー」や「アビー」といった偽名を使う見知らぬ人物から、Grindrなどのマッチングアプリを通じて誘惑的なメッセージが送られてきた。

イギリスの議員が脅された事例も

もっとも注目を集めたのはウィリアム・ラッグ議員のケースである。彼はアプリで知り合った人物との親密なやり取りによって弱みを握られてしまった。詳細はわからないが、かなり「恥ずかしい」メッセージを送り合ってしまったらしい。

(参考:The Guardian「Senior Tory ‘mortified’ after reportedly passing MPs’ data to dating app contact」)

同議員は脅され、同僚議員の電話番号を教えてしまい、それが他の政治家への接触に利用されたという。同じプロフィールの人物(アカウントを使い回している可能性があるから同一人物ではないかもしれない)が、主要な政治集会の周辺でも活動していたからだ。

勝丸円覚『産業スパイ対策の教科書』(日本能率協会マネジメントセンター)
勝丸円覚『産業スパイ対策の教科書』(日本能率協会マネジメントセンター)

2023年のリバプール労働党大会や自由民主党(イギリスの政党)の大会を含む他の政治イベントの周辺でも目撃された可能性も示唆されている。

歴史的にみると、諜報機関が何十年にもわたって用いてきた手法の現代版がマッチングアプリということができる。マッチングアプリがもたらした「革命的」なポイントは、標的の特定、接近、そして関係構築にかかるコストが劇的に削減されたことだ。なにしろ、相手の「結婚(ないし恋愛)相手を求めている」という欲求がはっきりしていて、アプリに記載された情報から、本人の好みなどもわかる。

これまでのようにバーやレストランで聞き耳を立てたり、尾行したりする必要などまったくない。