※本稿は、山田悟『糖質老化』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。
血糖値が下がっても安心できない
高血糖の影響はすい臓疲労(血糖を調節するすい臓に負担がかかった状態)を生じさせて、ますます高血糖を加速するだけではありません。「高血糖の記憶(メタボリックメモリー)」と呼ばれる現象を起こしてしまうのです。これは、長く続いた高血糖の影響が、血糖値を改善した後もからだに残り続けてしまう現象のこと。高血糖はからだに悪しき記憶としてしみついてしまうのです。
その一因とされているのが、糖化(糖がたんぱく質などと反応すること)によって生まれるAGEs(終末糖化産物)の蓄積です。1度体内にたまったAGEsは分解されにくく、血管や細胞に長くとどまり、炎症や老化を進める方向にはたらき続けます。これが「過去の高血糖が未来の体調に影を落とす」理由の1つです。
また、高血糖が続いてすい臓の疲労が深まると、マウスを用いた研究では、本来、血糖値を下げるインスリンを分泌するβ細胞の一部がその性質を失い、血糖値を上げるホルモン、グルカゴンを分泌するα細胞のようなはたらきを示すようになる現象も知られています[1]。
すい臓の中で起こる裏切り
もし逆に、α細胞がβ細胞に変わってくれるならば、血糖値は下がりやすくなるはずですが、現実に起こるのはその反対。β細胞の「α細胞化」です。この変化はさらにインスリン分泌の低下を招き、すい臓の疲労と高血糖を進める方向にはたらいてしまいます。高血糖は、血管や細胞に悪い「記憶」を残すだけでなく、すい臓そのものの細胞構成まで変えてしまう。
これを老化ととらえるのであれば、すい臓疲労はやがてすい臓自身の老化を生むと解釈することも可能です。ただ、β細胞がα細胞化する詳しいメカニズムはまだわかっていません。そのメカニズムが判明したら、α細胞をβ細胞に変えることが可能になることも考えられます[2]。β細胞化が実現できたら、すい臓疲労からの復活、すい臓の若返りも夢ではないでしょう。
高血糖の記憶に悩まされるのは、β細胞の再生力が極めて弱いためです。このβ細胞の再生力を高める研究も行われています。実は、マウスを使った動物実験では、β細胞を再生させることに成功したという研究もいくつかあるのです。

