ベジファーストより「オイルファースト」
実際には、インクレチン作用が高まって増幅経路が動いていると、インスリン分泌が「早く」生じて食後高血糖が抑制され、惹起経路が抑制されてインスリン分泌量そのものは増えないどころか減ることもしばしばです。ロカボの食事では、血糖値の急上昇による強い惹起経路の負荷を避けながら、増幅経路を働かせることができます。
その結果、すい臓は無理に大量のインスリンを出さなくてもよくなり、β細胞の消耗を防ぎやすくなるのです。血糖の乱高下を避け、惹起経路の活性化を最小限にとどめること。それこそが、β細胞を守り、すい臓疲労を遠ざけるもっとも確かな方法なのです。すい臓疲労を避けるためにもう1つ大切なのは、いわゆる「食べ順」です。
糖質を含むご飯やパンなどの主食を最後にし、脂質やたんぱく質を含む肉や魚などの主菜を先に食べるのです[4]。「カーボラスト(糖質を最後に食べること)」および「オイルファースト(脂質を含むおかずを先に食べること)」とご認識いただければと思います。主菜から脂質やたんぱく質を摂ると、GIPとGLP-1による増幅経路のスイッチが入ります。
血糖値が上がり切る前に抑える
この時点では、インスリンそのものは基礎分泌でしかありません。その後主食などから糖質を摂って血糖値が上がっても、増幅経路で前倒しで分泌されるインスリンが、すぐ血糖値を下げてくれます。これにより惹起経路で分泌されるインスリンの分量を最小限で済ますことができるのです。
火事も、ボヤのうちなら消火器で消し止められますが、燃え広がると消防車などによる本格的な消火活動が求められます。食後の血糖値の上昇を火事にたとえると、おかず(主菜)のたんぱく質や脂質を食べたときのGIPとGLP-1による増幅経路で分泌されたインスリンは、ボヤのうちに火を消し止める消火器のようなもの。
そこで血糖値の上昇をある程度抑えておけば、お米やパンといった糖質を食べたときの惹起経路を駆使して血糖値を下げる(消防車での本格的な消火)活動が最小限で済むのです。
主食のご飯やパンなどの糖質からいきなり食べ始めたり、主食→主菜→副菜の三角食べを実践したりしていると、増幅経路の出る幕がないので、ほとんど惹起経路のみで大量のインスリンを出して血糖値を下げようとし、すい臓は疲労します。
▼参考文献
[1] マウスのすい臓β細胞の性質の変化
論文名:Pancreatic β Cell Dedifferentiation as a Mechanism of Diabetic β Cell Failure
掲載誌:Cell. 2012;150(6):1223-1234.
URL:https://doi.org/10.1016/j.cell.2012.07.029
[2] すい臓の細胞の変化と転写因子
論文名:Role of transcription factors in the transdifferentiation of pancreatic islet cells
掲載誌:Journal of Molecular Endocrinology. 2015;54(2):R103-R117.
URL:https://doi.org/10.1530/JME-14-0290
[3] GIP・GLP-1による糖・エネルギー代謝の調節
論文名:Regulation of glucose and energy metabolism through actions of glucagon-like peptide-1 and glucose-dependent insulinotropic polypeptide
掲載誌:Journal of Diabetes Investigation. 2024;15(12):1725-1726.
URL:https://doi.org/10.1111/jdi.14305
[4] 食べる順番と血糖変動・胃排出・ホルモン分泌
論文名:Meal sequence and glucose excursion, gastric emptying and incretin secretion in type 2 diabetes: a randomised, controlled crossover, exploratory trial
掲載誌:Diabetologia. 2016;59(3):453-461.
URL:https://doi.org/10.1007/s00125-015-3841-z
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