認知症を防ぐためにはどうすればいいのか。脳神経内科医で岐阜大学教授の下畑享良さんは「この10年ほどで、脳の老廃物を排出するしくみが、睡眠など日常生活の影響を受けることがわかってきた」という――。

※本稿は、下畑享良『医者が教える 一生パフォーマンスする脳』(日経BP)の一部を再編集したものです。

不眠に悩む男性と目覚まし時計
写真=iStock.com/Filmstax
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脳の老廃物を排出するしくみ

本書の第2章までで、脳の中にアミロイドベータとタウというふたつのタンパク質が病的な形でたまり、アルツハイマー病の発症や進行に深く関わることをお伝えしました。

また、これらがウイルスに対する防御のために働いている可能性についてもご説明しました。

それでは、なぜアミロイドベータとタウは、必要以上に脳にたまってしまうのでしょうか。

その理由を大きく分けると、「つくられる量が多すぎる」か、「脳の外へうまく捨てられない」かのどちらかです。

これまでの医学は、長いあいだ「つくられる量が多すぎる」ことばかりに注目してきました。

ところがこの10年ほどで、視点が大きく変わりました。それは、脳にたまった不要な物質を、どのように外へ「排出する」のか、そのしくみが、急速に明らかになってきたためです。

そして、脳の老廃物を排出するしくみは、睡眠など日常生活の影響を受けることがわかってきたのです。

その「老廃物を排出する力」から認知症を考えてみたいと思います。

アミロイドベータの規則的な変化

話は2012年にさかのぼります。

アメリカの研究チームは、脳や脊髄のまわりを満たしている脳脊髄液を、36時間にわたって1時間おきに採取し、そこに含まれるアミロイドベータの濃度を測定しました。

脳脊髄液は、腰の骨と骨の間から細い管を留置することで、繰り返し採取することができます。

すると、興味深い変化がわかりました。

アミロイドベータの濃度は一定ではなく、昼から夕方にかけて高くなり、夜から朝にかけて低くなるという、1日周期のリズムを示していたのです。翌日になると、再び同じような変化を繰り返しました。

研究者たちは、この規則的な変化には、脳の活動や睡眠と関係する重要なしくみが隠されているのではないかと考えました。しかし、この研究だけでは、なぜ眠っている時間帯にアミロイドベータが減るのかまではわかりませんでした。

じつは、この昼夜の変化を読み解くヒントは、ヒトの研究より3年前、2009年に発表されたマウスの実験にありました。