睡眠が「掃除の時間」という可能性がある

ヒトでこの研究が行われる少し前、2009年に、睡眠がアミロイドベータにどのような影響を与えるのかを、マウスで調べた研究が発表されていました。

研究者たちは、アミロイドベータが脳にたまりやすいように遺伝子を改変したマウスを使い、一方は普通に飼育し、もう一方は1日20時間、眠らせない状態を21日間続けました。

その後、顕微鏡で脳を調べると、睡眠を制限したマウスでは、普通に眠らせたマウスよりも、大脳のさまざまな場所で老人斑が明らかに増えていました。

つまり、睡眠不足が長く続くと、アミロイドベータが脳にたまりやすくなる可能性が、動物実験で示されたのです。

この2009年の動物実験と、先ほどご紹介した2012年のヒトの研究を合わせると、睡眠とアミロイドベータの増減には、密接な関係があることがうかがえます。

ただし、この段階でわかっていたのは、眠っている間にアミロイドベータが減るという現象まででした。脳がどのようなしくみでアミロイドベータを外へ捨てているのかは、まだわかっていませんでした。

その謎に大きく迫ったのが、2013年にScienceに発表された動物実験です。

この研究では、生きたマウスの脳を特殊な顕微鏡で観察し、覚醒中と睡眠中を比べました。

すると睡眠中には、脳の細胞と細胞の間の空間が約60%広がり、脳脊髄液が脳内を流れやすくなって、アミロイドベータなどの不要な物質が速やかに排出されることがわかりました。つまり睡眠は、脳を休ませるだけでなく、脳内を洗い流す「掃除の時間」でもある可能性を示した研究です。

3Dワイヤーフレームの脳
写真=iStock.com/Khanchit Khirisutchalual
※写真はイメージです

睡眠とアルツハイマー病リスクの関係

さらに2016年、アメリカで、認知機能に問題のない1万1453人を追跡した研究の結果が発表されました。睡眠上の問題があると報告された人は、そうでない人と比べて、追跡期間中にアルツハイマー病と診断される危険性が約4倍に上がっていました。

「睡眠障害」というと、不眠症と診断された特別な人を思い浮かべるかもしれません。

しかし、この研究で調べられたのは、家族などから見て、「夜中に何度も目を覚ます」「朝早く起きすぎる」「昼間に長く眠る」といった様子があるかどうかでした。正式な病名がついている人だけを対象にしたものではありません。

ただし、この研究だけで、睡眠の問題がアルツハイマー病を直接引き起こすと証明されたわけではありません。睡眠の変化が、すでに脳の中で始まっていた病気の早いサインだった可能性もあります。