熟年離婚では、妻が夫に別れを切り出すことが多いが、逆のケースもある。公認心理師で夫婦問題研究家の岡野あつこさんは「妻に暴言や暴力をせず、家族のために懸命に働く夫が、ある日、『もうこの人とは生きていけない』と心が折れてしまうことがある。原因のひとつは、妻が一線を越えた言葉を吐いた場合だ」という――。

熟年離婚する“おとなしい夫”の共通点

「もう、妻とは一緒に暮らせません」

そう言って離婚相談に訪れた男性は、声を荒らげることもなく、淡々と話しはじめた。妻との間に激しい喧嘩があったわけではない。暴力を振るったこともなければ、大声で怒鳴り合うような夫婦でもなかったという。

それなのに、なぜ今、離婚なのか。

厚生労働省が2026年9月30日に公表した「2025年人口動態統計(確定数)」によると、年間の離婚件数は17万9073組。前年より6831組減少している。

ところが、同居20年以上の夫婦が離婚全体に占める割合は24.2%。過去最高の水準となり、離婚した夫婦のおよそ4組に1組が、20年以上連れ添った夫婦ということになる。

夫婦問題の相談現場でも、熟年離婚に関する相談は後を絶たない。

なかでも気になるのが、普段は穏やかで、妻に強く言い返すこともない夫が、ある日突然「もう無理です」と離婚を決意するケースだ。前出調査では、熟年離婚を宣告するのは妻が7~8割で圧倒的に多いものの、残り2~3割は夫からの三行半ということになる。

筆者は、これまで多くの夫婦問題に向き合ってきたが、妻へ最後通告をする夫には共通点があると感じている。それは、彼らが総じて「働き者」で「おとなしい人」ということ。無論、家庭内暴力をするわけでも、働かず遊び呆けているわけでもない。そのため、相談時にも怒りを爆発させるというより、「妻への期待を静かに手放す」という印象が強い。静かだが、決心は固い。

では、長年連れ添った夫が「もうこの人とは生きていけない」と感じる瞬間とはどんなものか。3組の夫婦の実例から、その心理を考えてみたい。(※登場された方のプライバシーに配慮し、実際の事例を一部変更、再構成しています)。