※本稿は、朝日新聞取材班『ルポ 熟年離婚 「人生100年時代」の正念場』(朝日新書)の一部を再編集したものです。
元夫に分譲マンションを売らせない方法
厚生労働省が5年ごとに発表している「全国ひとり親世帯等調査結果報告」(2021年度)によると、母子家庭のうち養育費を受け取っている割合は28.1%にとどまる。多くの母子家庭が、もらえるはずの養育費を受け取れていない実情がうかがえる。
元配偶者の勤務先が協力的でなかったり、元配偶者が自営業やフリーランスで月々の報酬を把握できなかったりすると、差し押さえは難しくなるという。
東京23区内の分譲マンションに住む元妻(45歳)は、同い年の元夫の浮気が原因で2024年1月に裁判の末に和解し、離婚した。
元夫は大手企業に勤めた後、フリーランスとして独立。預貯金も少なかったので、子ども二人の養育費は月2万円と少なめにした。その代わり、元妻と子どもたちは、離婚前から暮らす分譲マンションに住み続けることを望んだ。
そこで担当弁護士は、元夫が勝手にマンションを売り払えないようにするための「奇手」に出た。
養育費は踏み倒してもローンは払うだろう
二人が交わした和解調書には、〈夫は妻と子どもがこのマンションに2031年まで居住することを認め、住宅ローン、管理費、修繕積立費の支払いを継続する〉〈売買契約は夫を売り主、妻を買い主とし、31年時点での住宅ローン残金で売買することを予約する〉などと記載。「売買予約」と仮登記し、31年までは夫は妻の同意なしに物件を第三者に売ることができないようにしたのだ。
「こうすれば、夫から養育費を支払われなくなっても妻と子どもたちが住むところは確保できる」と担当した辻千晶弁護士は解説する。
養育費は踏み倒しても、住宅ローンは社会的信用のために返済し続けるだろうという、相手の心理を読んだ作戦だった。
離婚後、元配偶者が所在不明になり、連絡が取れなくなるケースは少なくない。養育費の担保をどう取るか、離婚時に取り決め、書面で残しておくことが大事という。
強制執行が認められるのは、裁判での判決、調停調書、公正証書など債務(支払う側)の名義が記された書面が残されているケースがほとんど。養育費の支払いを口約束しただけで協議離婚してしまうと、強制執行は難しくなる。
養育費や財産分与など「お金のケジメ」をちゃんとつけることは、離婚後の人生設計にとっても不可欠だ。