家族の絆を「たった一言」でぶった切り

【ケース3】「子どもたちも、あなたを嫌ってるから」
父親としての居場所を失った夫

「お父さんって、何を考えているかわからないよね」

結婚29年目の会社員E(55歳)は、子どもたちからそう言われたことがあった。

Eはもともと自分の気持ちを言葉にするのが苦手なタイプ。口数も少なく、子どもの進路について相談されても、「お母さんに任せるよ」と答えることが多かった。

一方、妻のF(51歳)は仕事をしながら、毎朝の弁当づくりから学校行事、受験の手続きまで、ほとんど一人で担ってきた。

「夫に相談しても、頼りになる返事がないから」と、いつしかFは、何でも自分で決めるようになっていた。

子どもたちも、日頃から自分たちを支えてくれる母親に相談することが増え、父親との会話は減っていった。

そんなある日、子どもの就職をめぐって珍しく夫婦喧嘩になった。Eが「そういうことは、俺にも相談してほしかった」と言うと、Fの怒りが爆発した。

「今まで何にもしてこなかったくせに、今さら父親ヅラしないでよ!」

さらに、こう続けた。

「子どもたちも、あなたのこと嫌ってるからね」

Eは言葉を失った。妻に責められることには慣れていた。しかし、子どもまで自分を嫌っていると言われたのははじめてだったのだ。

「俺は、この家にいてはいけない人間なのか」

その日から、Eは家族が集まる食卓を避けるようになった。妻に話しかけることも減り、必要な連絡だけをするようになった。

そして、離婚を考えはじめたのである。

窓際でいさかいをしているカップルのシルエット
写真=iStock.com/PonyWang
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一瞬にして「家族全員からの拒絶」に

夫は「父親として尊敬されているはず」
妻は「父親の責任を果たしていない」

結論から述べると、夫婦喧嘩に「子どもの気持ち」を持ち込んではいけない、ということだ。

妻が腹を立てるのも無理はない。長年、家事や育児をほとんど一人で担ってきたのだから、「何を今さら」と感じるのはしかたない。夫にも、父親として家族にもっと向き合うべきだったという課題がある。

ただ、夫婦喧嘩の最中に「子どもたちもあなたを嫌っている」と言うのは、別の問題だ。夫にとって、妻との対立が、一瞬にして「家族全員からの拒絶」に変わってしまうからである。

とくに、子どもを愛しつつも、父子関係が希薄だったことを気にしている父親にとっては、深く傷つく言葉になり得る。

では、夫が妻に言う「おまえは母親失格だ」とは、何が違うのか。

「母親失格」は、妻の親としての能力や努力を否定する言葉である。一方、「子どもたちもあなたを嫌っている」は、子どもを自分の側に立たせ、夫の家庭内での居場所そのものを否定するように響く。「一撃」で打ちのめすパワーを備えている。

もちろん、どちらも許される言葉ではない。そもそも、子どもの気持ちは子ども自身のものである。妻が勝手に代弁してよいものではない。夫に不満があるなら、妻は「私はずっと一人で子育てをしているようで苦しかった」と、自分の気持ちとして伝えるべきなのだ。