おとなしい夫たちが突然キレる前の「沈黙」

ここまで紹介した3組には、ある共通点がある。

それは、夫が最後に怒鳴り返したわけではないということだ。むしろ、妻から見れば、以前より静かになっただけだった。旅行に誘わなくなる、LINEへの説明をやめる、家族との食事を避ける、将来の話をしなくなる……といった変化を、妻は「最近、機嫌が悪いのかな」「そのうち元に戻るだろう」と受け流してしまうことがある。

ところが、夫の心の中では、すでに結婚生活を終わらせる準備が始まっている場合もある。夫婦関係で本当に怖いのは、激しい喧嘩よりも、「もう何を言っても無駄だ」と思われることだ。

ただし、いつも穏やかな夫だからといって、家族への責任を十分に果たしてきたとは限らない。家事や育児を妻に任せきりにしていなかったか。妻が何度も訴えてきた不満を聞き流していなかったか。

妻の一言が決定打になったとしても、そこに至るまでの責任をすべて妻に負わせることはできない。夫婦のすれ違いは、多くの場合、どちらか一方だけで生まれるものではないからだ。

言葉の選び方で相手への届き方は変わる

では、どうすればよかったのか。夫婦喧嘩になったときこそ、相手の「存在」ではなく「行動」について話すことを提案したい。

「あなたはお金だけ入れてくれればいい」ではなく、「私はこれまで一人で家事や育児を担ってきたことが寂しかった」。

「どうせ嘘でしょ」ではなく、「最近、帰りが遅くて不安になっている」。

「子どもたちもあなたを嫌っている」ではなく、「もっと子育てに関わってほしかった」。

伝えたい不満は同じでも、言葉の選び方で相手への届き方は変わるからだ。

夫の側も「我慢することと、夫婦関係を守ることは同じではない」ということを肝に銘じておきたい。何も言わずに耐え続け、ある日突然、離婚を突きつける。それでは妻も何が起きたのか分からないまま取り残されてしまうだろう。

傷ついたなら「傷ついた」と伝える。不満があるなら、小さいうちに話し合う。これは弱さではなく、夫婦として向き合うための大切な行動である。

長年連れ添った夫婦だからこそ、つい「このくらい言っても大丈夫」「言わなくても分かるはず」と思ってしまう。

ところが、30年間一緒にいたからといって、相手の心まで自分のものになったわけではない。どんなに腹が立っていても、相手の存在そのものを否定する言葉だけは使わない。そして、相手が黙っているからといって、傷ついていないと思わない。夫婦の未来を壊すのも言葉なら、もう一度つなぎ直すきっかけになるのも、また言葉なのだ。

「そんなつもりじゃなかった」

そう後悔する前に、今、目の前にいる相手の気持ちに、もう一度耳を傾けてみてはどうだろうか。

岡野 あつこ(おかの・あつこ)
夫婦問題研究家・パートナーシップアドバイザー・公認心理士

NPO日本家族問題相談連盟理事長。立命館大学産業社会学部卒業、立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科修了。自らの離婚経験を生かし、離婚相談所を設立。離婚カウンセリングという前人未踏の分野を確立する。これまでに35年間、4万件以上の相談を受け、2200人以上の離婚カウンセラーを創出。著書に『離婚カウンセラーになる方法』(ごきげんビジネス出版)など多数。近著は夫婦の修復のヒントとなる『夫婦がベストパートナーに変わる77の魔法』(サンマーク出版)。
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