人間は一面では語れない。それは経営者も同じだ。京セラや第二電電(現・KDDI)の創業者で、京セラ社長・名誉会長を歴任した稲盛和夫氏は「経営の神様」として知られる。ライターの栗下直也さんは「技術者出身でありながら超能力を否定しなかった。むしろ自分の仕事に使える教訓として興味津々だった」という――。

京セラで行われていた「スプーン曲げ」の怪

1991年。ユリ・ゲラーの来日でスプーン曲げが大流行してから、もう十数年がたっていた。世間のブームはとうに去っている。ところが、京セラの研修室では、社員たちがまだ真顔でスプーンを曲げていた。集中力と精神力を高めれば、不可能に見えることも可能になる。それを体で覚えさせるための教育だったという。

曲がったスプーン
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京セラを創業した稲盛和夫なら、ありそうな話だと思う人もいるだろう。なにしろ、社員に心のあり方を説き続けた経営者である。京セラが「オカルト経営」「社員を洗脳している」と批判されることもあった時代だ。

ところが、当の稲盛は何も知らなかった。この年、特命秘書になったばかりの大田嘉仁が、稲盛に「フィロソフィ教育はどうなっているのか」と聞かれて調べ、研修の場でスプーン曲げが真面目に行われているのを見つけたのである。大田が「稲盛会長のご指示だとは思いますが、私はちょっとおかしいと思っています」と申し出ると、稲盛は目を丸くした。「俺は全く知らなかった。それは行き過ぎた。すぐにやめさせなさい」。スプーン曲げ教育は、その日で終わった。

「経営の神様はスプーン曲げを信じていなかった。めでたしめでたし」で終わるなら話は簡単なのだが、そう単純ではない。その8年前、稲盛は透視能力を持つという19歳の大学生と、6時間も語り合っていたのである。